卵アレルギーについて vol.1

卵アレルギーのお子さんをもつ親御さんへ知っておいてほしいことを説明します。
1番気になるのはアレルギーの採血についてだと思いますが、その他の項目も確認してみてください。

卵のアレルギー成分について

卵の主なアレルゲン(アレルギーの原因)は卵白に存在します。

卵のタンパク質はオボアルブミン(約54%)、オボムコイド(約11%)、リゾチーム(約3.4%)、オボトランスフェリン(約12%)などが代表的なものになります。

オボアルブミン、オボトランスフェリンは熱に対し変性しやすく、オボムコイドは熱に対し安定している特徴があります。
採血で測定することが出来る項目は、「卵白」と「オボムコイド」になります。
そのため採血で確認しているのは、この代表的なタンパク全体をみる「卵白」か、そのうちの1つの「オボムコイド」の反応をみていることになります。

卵の加工による変化について

卵は加熱することで抗原性(アレルギー物質として認識されるかどうかの程度)が低下することはよく知られています。
しかし加熱の時間も重要で、20分間ゆでた卵と12分ゆでた卵ではその抗原性の低下が異なることがわかっており、より加熱した20分間ゆでた卵のほうがより抗原性が低下したという結果でした1)
そのため、卵アレルギーの心配が強い親御さんに関しては沸騰後20分加熱した卵の摂取がよいと思います。
私は少なくとも12分以上加熱は必要であると考えており、実際の外来でも12分以上加熱したゆで卵の摂取を指導しています。

注意が必要なのは、中華スープのとき卵、茶わん蒸し、ケーキやプリン等です。
加熱が不十分である可能性があるためです。
そのため、ゆで卵は食べられても、とき卵等は加熱が不十分で症状が出てしまうことはよく経験します。

卵黄は卵白に比べてアレルギーの抗原性が低いことがわかっています。
そのため卵を食べるときは卵黄からになります。
卵黄の抗原性は卵黄のまわりに接触している卵白からくるものと考えられていますので、ゆで卵をそのまま放置すれば卵黄も少しずつですが抗原性が上がります。
一般にゆで卵を作り、卵黄と卵白を分離した場合の卵黄は、0.01g相当の卵白中に含まれているオボムコイドであると考えられています2)
また、生卵から卵黄を分離した後に卵黄のみを加熱した場合は1g相当の卵白が混入する可能性があります3)

卵アレルギーの診断について 

アレルギーの診断は、卵の含まれている食品を食べてアレルギー症状が出たことを確認することが基本になります。
そのため、卵そのものを食べた場合でなくても、パンやハンバーグ、唐揚げ等の卵の摂取があるかを確認します。
卵を含む食べ物を微量しか摂取していないのに症状がでたとするならば、食物経口負荷試験はより注意して行うかどうか判断する必要があります。
逆にある程度食べられることがわかれば、少量を摂取することは安全に行える可能性が高いことが予測出来ます。

「どの程度食べられたのか」、「加熱はどうであったか」、「アレルギーの症状はどうのようなものであったか」を確認することは診断の上で1番重要なポイントになります。

血液検査の解釈について 

アレルギーの血液検査の説明です。
繰り返しになりますが、大事なのは本人が卵を含む食品を食べて症状が出た、または食物経口負荷試験で症状がでた事で診断とします。あくまで血液検査は補助的に使用されます!

採血では、卵に対しての特異的な抗体(卵に対して免疫反応があるか)をみる目的があります。その検査項目は卵白特異的抗体価(EW-sIgE)、オボムコイド特異的抗体価(OVM-sIgE)が選択されます。

先ほど、オボムコイドは熱に安定していると説明しました。
そのため、もしEW-sIgEが陽性でOVM-sIgEが陰性である場合、加熱した卵は食べられる可能性が高くなります。
しかしEW-sIgEが陽性でOVM-sIgEも陽性である場合、加熱してもなかなか卵が食べられない可能性があるという解釈になります。
繰り返しになりますが、あくまで可能性です。

この採血の数値が高いと親御さんは心配になりますが、高いから重症であるとは言い切れません。
この数値は卵を食べた際にアレルギー症状がでる可能性が高いかどうかの判断をする基準として使用されます。
日本ではプロバビリティカーブという表があり、お子さんの採血結果を表にあてはめてどれくらいの確立でアレルギー症状がでるかを推定することができます。

食物アレルギー診療の手引き2017より引用

実際に確認してみましょう。アレルギー検査をした方は実際の数値を表にあてはめて確認してみてください。
例えば、採血の抗体価の数値が1KUA/L(EW-sIgE)であった場合、1歳未満であれば約60%で症状がでることになります。同じ値でも1歳で約40%、2歳以上で約20%と年齢が上がる毎に症状の出る可能性が下がっていきます。

食物アレルギー診療の手引き2017より引用

これは卵白の量によるプロバビリティカーブです。
同じように、もし1KUA/L(EW-sIgE)であった場合は、加熱卵黄つなぎは症状誘発はほぼゼロです。ほぼ食べられると考えます。
加熱全卵1/4つなぎでは症状誘発は約10%です。それよりも少ない量から慎重に負荷していき症状の有無を確認してきます。
全卵1個炒り卵は症状誘発は約40%です。症状がでる可能性がありますが、逆に60%は食べても症状がでないということになります。

オボムコイド(OVM-sIgE)のプロバビリティカーブも存在し、卵白よりも結果の推測に優れており、重症度と相関していることも示されています4,5)

親御さんから聞いたお子さんの症状が出た時のエピソードと、採血の結果からどの程度卵を負荷していくかを相談し、なるべく除去しないように指導していくことが現代のアレルギー対応の流れになります。
そのため安全量を見極めて、その子その子の食べられる量を決めていく必要があります。
それが食物経口負荷試験というわけです。

次回に続きます。

写真は愛鷹広域公園内にあるせせらぎの道です。
以前に桜並木の写真を載せた公園です。
この公園では川が流れておりサワガニを観察することが出来ます。
雨の日には、この川に向かう道からカニが歩いて出迎えてくれます。

1) 伊藤節子:日本小児アレルギー学会誌25:63-67. 2011
2) 坂井堅太郎ほか:アレルギー47 : 1176-1181. 1998
3) 松井照明ほか:第52回日本小児アレルギー学会. 2015
4) Haneda, et al:J Allergy Clin Immunol 112 : 556-557, 2014
5) Nomura T, et al : Ann Allergy Asthma Immunol 112 : 556-557, 2014

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