小児のスポーツ後の疲労回復について相談をうけましたので一度記事としてまとめたいと思います。
いつもどおりまず結論から。
運動後の回復の基本は「睡眠、食事による栄養補給、ストレッチ」。
エビデンスのない冷水療法は推奨しない。
になります。
よくある質問の1つに「スポーツ後、自宅で冷水のシャワーを浴びたほうがよいですか?」
というものです。
筋肉の疲労回復目的でのシャワーであれば、答えは「浴びなくてよい」になります。
ただし、熱中症予防のために、スポーツ後に冷水のシャワーを浴びる行為は全く問題ありません。目的が違いますから、そこは注意してくださいね!
では、詳細を説明していきましょう。
この記事の目次
冷水療法とは?
冷水療法やコールドシャワー等いろいろな表現がされています。
運動後の回復促進や、炎症抑制、精神的なリフレッシュなどを目的として、身体を冷水に浸す方法です。一般的には10℃から15℃の範囲で運動直後(30分以内が理想的)に浴槽に水と氷を入れて、目的の水温に調整し、5分から15分程度全身または部分的に冷水につかることを冷水療法といいます。
冷たいシャワーを浴びる方法もありますが、効果は限定的であることがわかっています。
運動後に体を冷やす冷水療法は大人で有効性1-3)が示されていますが、小児でのエビデンスが乏しいことから推奨されていません。
ではなぜ推奨されていないのでしょうか。
冷水療法を推奨しない理由:小児は成人ほど運動で筋肉が損傷しない
そもそも成人と比較して運動による筋肉の損傷が小児では少ないことがわかっています4,5)。そのため急激に筋肉を冷やすことで炎症を抑えたりする必要性がそもそもないということになります。
損傷が最初から少ないので、小児は成人よりも筋肉痛等の痛みや疲労からの回復が早いということにつながります。
なぜそもそも損傷を受けにくいのかを詳細を説明すると長文になってしまうので簡略化すると、筋肉の組織構造が成人と小児で異なるためです。そのため、損傷の度合いに差がでるといわれています。
大事なポイントは「小児は大人より筋肉の損傷をうけにくい」を理解していただければと思います。
冷水療法を推奨しない理由:筋肉が回復する際の筋肥大を阻害する可能性がある
筋肉が損傷をうけると、回復する際、より筋肉が肥大するように働きます。この動きを「筋リモデリング」といいます。
冷水療法は、この筋リモデリング(筋肉の回復)を阻害する可能性があることがわかっています6)。
ただし、この筋リモデリングを遅らせる可能性に関してもエビデンスが乏しくはっきりとしたことはまだわかっていません。
ただ、冷水療法をすることで成長期にある小児の筋肉の再生を遅らせてしまう可能性があることを我々大人は認識しなければいけませんし、筋肉の再生を遅らせてしまう可能性があることをあえてお子さんにおこなう必要はないと考えます。
その他、心血管系、内分泌に影響がある可能性が指摘されていますが、これらも詳細なエビデンスはないため、良いとも悪いとも言えない状況です。
まとめ
アスリートやスポーツ選手が運動後に水風呂に入っているのをみて疲労回復によいと考えてしまうことはあると思います。
成人には有効でも小児にとってはまだわかっていないことが多く、現時点での冷水療法は推奨されません。
成長期の小児に対しては、短期的な疲労回復効果ではなく、長期的な身体発達(筋力、筋量増加)への潜在的な影響を考えて判断する必要があるということをお伝えしました。
最初に記載しましたが、夏の時期のスポーツ後の熱中症予防のための冷水シャワーは全く別の概念ですので注意してくださいね。
次の記事では、安全でエビデンスのある基本的な回復方法(睡眠、栄養、ストレッチ)について説明していきます。
以上になります。
写真ですが、なんとなく冷水と放水をかけまして、練馬消防団の消防操法大会の放水のシーンにしました。消防隊の方は本当にかっこよく、息子と2人で興奮しながら見学しました。消防隊は我々男子のあこがれです!
1) Bieuzen F, Bleakley CM, Costello JT. Contrast water therapy and exercise induced muscle damage: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2013 Apr 23;8(4):e62356. doi: 10.1371/journal.pone.0062356. PMID: 23626806; PMCID: PMC3633882.
2) Poppendieck W, Faude O, Wegmann M, Meyer T. Cooling and performance recovery of trained athletes: a meta-analytical review. Int J Sports Physiol Perform. 2013 May;8(3):227-42. doi: 10.1123/ijspp.8.3.227. Epub 2013 Feb 20. PMID: 23434565.
3) Bleakley CM, Bieuzen F, Davison GW, Costello JT. Whole-body cryotherapy: empirical evidence and theoretical perspectives. Open Access J Sports Med. 2014 Mar 10;5:25-36. doi: 10.2147/OAJSM.S41655. PMID: 24648779; PMCID: PMC3956737.
4) Chen TC, Chen HL, Liu YC, Nosaka K. Eccentric exercise-induced muscle damage of pre-adolescent and adolescent boys in comparison to young men. Eur J Appl Physiol. 2014 Jun;114(6):1183-95. doi: 10.1007/s00421-014-2848-3. Epub 2014 Feb 23. PMID: 24563093.
5) Soares J, Mota P, Duarte J, Appell H. Children are less susceptible to exercise-induced muscle damage than adults: a preliminary investigation. Pediatr Exerc Sci. 1996;8(4):361–367.
6) Murray A, Cardinale M. Cold applications for recovery in adolescent athletes: a systematic review and meta analysis. Extrem Physiol Med. 2015 Oct 12;4:17. doi: 10.1186/s13728-015-0035-8. PMID: 26464795; PMCID: PMC4603811.
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