頭の形の変形を斜頭症といいます。
日本の教科書で詳しく書いてあるものはほとんどありません。
そのため海外の教科書である、2020年出版のネルソン小児科学1)、2017年出版の脳神経外科の教科書2)、その他、斜頭症に関連する論文を日本語にまとめて記載します。
この記事はこれから出産をひかえているお母さんにぜひ読んでいただきたいです!
この記事の目次
頭の変形の歴史 なぜ頭の変形が増えたのか
1992年、American Academy of Pediatrics(アメリカ小児科学会)は「仰向け寝」運動を推奨し、早期に乳幼児突然死症候群(sudden infant deathsyndrome:SIDS)の発生を減少させることに成功しました3)。
この結果、日本でもお子さんを出産された後、助産師さんからお子さんを寝かせる時は「うつ伏せ寝」ではなく、「仰向け寝」にしましょうと指導があったかと思います。
これはお子さんの命を守ることにつながりますで、仰向け寝をすることはとても大事なことです!!
しかし、この仰向け寝は寝癖から頭の形が変形してしまう(特に後頭部の絶壁)という新しい問題を引き起こしてしまいました。
仰向けに寝かせることで、常に頭の後ろ側に圧がかかります。
絶壁になったり、向き癖により頭の形がかわってしまったとアメリカの頭蓋顔面センターに相談される方が1992年以降増加したという歴史があります4)。
斜頭症の頻度について
斜頭症の頻度に関してはカナダの論文を紹介します。この論文は頭の変形の発生率を大規模に調査して報告した最初の論文です。
カナダ、アルバータ州の生後2か月の健康な小児クリニックに通う乳児440人を対象として検査をしたところ、205人が何らかの頭の変形があることがわかり発生率は46.6%(高い!!)と推定されました。
63.2%が右側に罹患し、78.3%が軽症の変形で治療の必要はないとのことでした5)。
その後、いろいろな測定方法(レントゲン、CT、3D スキャン)でアメリカやヨーロッパで報告がされおり、概ねそれらの報告は20-30%程度です。
斜頭症の頻度は年齢によって変わる
大事はポイントは、年齢や月齢によって発生率が変わる点です。
2008年の複数の論文をまとめたレビュー6)では、18の論文をまとめています。その内容は、
生後7週で22.1%、生後4ヶ月で19.7%であり、この生後4か月内で発症頻度のピークに達します。
その後、生後12ヶ月で7%、2歳で3.3%と頻度は減少しています。
乳児は生後数週間は頭の位置を変えることができず、年齢が生後4か月になるまで頭を保持することができません。
このため、斜頭症は生後4か月前後で最も重症となります。
乳幼児は生後6か月頃には頭をコントロールすることが可能となるため、頭の圧力を軽減し頭の形が徐々に改善されていきます1)。
斜頭症となるリスク因子
現在わかっているリスク因子を箇条書きにします。
- 男性
- 初産
- 未熟児
- 先天性斜頸(首の動きが緊張することで、運動が制限されている状態です。6人に1人の頻度で新生児にみられます。)
- 発達遅延(生まれつき脳に障害等があるなど。出生後も体が自由に動かせないため向き癖がついてしまう)
- 睡眠時の姿勢が出生時から生後6週目まで仰向け寝
- 哺乳瓶のみの哺乳
- タミータイム(うつ伏せの姿勢)が1日3回未満
- 頭を同じ側に向けて寝る向き癖がある
この中で、発育遅延、未熟児7)に関してはどうすることも出来ません。
生後6週目まで仰向け寝に関してもSIDS予防のため必要です。
そのため、1か月健診で先天性斜頸8)を診断してもらい理学療法を指導してもらうことや、可能な限りタミータイムを行うことでリスクを低減するしかありません。
睡眠中の向き癖は、斜頭症の発生率に大きな役割を果たすことがわかっています。
乳幼児が頭の同じ部分を平らな面に置いたまま寝続けると、この部分に持続的に力がかかります。
頭蓋骨が急速に発達している乳幼児の期間では、硬い表面に置かれた部分では成長が阻害され、平らになってしまう部分が生じてしまいます1,2)。
どのようにして予防するかが大事です。
前回のブログ記事で積極的な体位変換やタミータイムについて少し記載しました。
ここでは少し具体的に説明したいと思います。
体位変換について
まず眠っているお子さんを観察してみましょう。向き癖がありそうですか?
ベビーベットを使用したり、子ども用の布団を使って寝かしつけをしていると思います。
だいたい、壁にそって寝具がおいてありますので自然と部屋の中心をみるように子どもは頭を動かします。
これが向き癖につながります。
そのため、頭と足の位置を毎日交互に変えてみましょう。
そうすることで、お子さんが部屋の中心を向いて寝る際に頭が同じ側になることを予防します。
早い段階でこの睡眠の際の頭と足の位置を変えることで、後頭部にかかる圧を左右均等にする事が出来ます。
初期の斜頭症に関してはこれだけでも効果があるようです。
既に向き癖がついている場合は、向き癖と反対側を向くように頭と足の位置をきめてあげるだけで少しずつ改善してきます。
例えば、左後頭部が平坦である場合は仰向けの状態で右側を向かせるのが望ましいでしょう。
(右後頭部が膨隆しているためそちらに圧をかけるため)
そのため、ベビーベットは仰向けに寝かせたお子さんの左側を壁に、右側を部屋の中心となるように寝かせます。
そうすることで音や光に反応して自然と右側を向きやすくなります。
まずは睡眠しているお子さんを観察し向き癖があるかを確認してみましょう1,2)。
タミータイムについて
タミータイム(うつ伏せの姿勢)はお子さんの頭、首、上半身の筋肉の発達を促進させます。
加えて、頭への圧を避ける効果があります。
タミータイムは、海外では退院後自宅ですぐにおこなうように指導されており、1日2-4回、1-2分から開始します。慣れてきたら少しずつ1回の時間を増やしていきます。最終的には最大1回15分程度まで可能となります。
床は固いマットでおこなうことが好ましく、柔らかいマット等は窒息の可能性があるので必ず避けてください。
また、うつ伏せの姿勢はほとんどの児が最初は抵抗感を示します。
まずはお母さんの胸やお腹の上、膝の上にお子さんをうつ伏せにして始めるのがよいと思います。
親御さんとお子さんの肌と肌のふれあいがコミュニケーションにもなります。
慣れてくれば周りにお気に入りのおもちゃや絵本をおいて興味をひくようにするとよいと思います。
もちろんお子さんが寝てしまったら仰向けにしてあげてください。
乳幼児突然死症候群の説明でうつ伏せ自体が危険だという認識がありますが、危ないのはうつ伏せ寝です!
そのため、お子さんと遊びながら親御さんが寝落ちすることは注意する必要があります。
左後頭部が平坦である児の例においては、頭を右側に向けるようにしてうつ伏せをさせます。
そうすることで、左側への向き癖が改善されるでしょう。
体位変換に加えてタミータイムを併用することで向き癖を改善する効果が増します。ぜひやってみてください。
大事はポイントは子どもと遊ぶ時間をつくり、その際にタミータイムをついでにやるというスタンスです。
やらないといけないというわけではありません。
初めての出産であれば自宅でお子さんと過ごすことで常に緊張すると思いますし、授乳や沐浴も慣れていないため非常に疲れると思います。
産後の回復に時間がかかり心と体の健康がすぐれていない場合、タミータイムが精神的に追い込む原因になってはいけません。
時間をかけて少しずつ親御さんのペースで開始すればよいと思います。
そして、驚くほど日本語のタミータイムの資料はありません。
英語ですが、下記に参考資料を添付します。オーストラリアの説明は絵だけ見るのでもわかりやすいです。
アメリカ小児科学会の説明
https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/baby/sleep/Pages/Back-to-Sleep-Tummy-to-Play.aspx
オーストラリア政府共催の説明
https://raisingchildren.net.au/newborns/play-learning/play-ideas/tummy-time
タミータイムについては、アメリカ小児科学会誌の今月号にレビューが記載されていました。
なかなか興味深く非常にまとまっていますので、次回このレビューを日本語に翻訳してまとめます。
しばしお待ちください。
以上になります。
写真はエサあげシリーズの続きです。今回はセイウチです。
スルメイカをあげることが出来ます。体や硬いヒゲにもタッチ出来ます。
幼少期から子ども達には、動物との生のふれあいを大事にしてきました。
そのせいか、大きな動物でも子ども達はへっちゃらで楽しんでいます。
1) Nelson Textbook of Pediatrics, Chapter 610, 3082-3086.e1
2) Youmans and Winn Neurological Surgery, 196, 1582-1587.e2
3) American Academy of Pediatrics AAP Task Force on Infant Positioning and SIDS: Positioning and SIDS. Pediatrics. 1992;89:1120–1126.
4) Argenta LC, David LR, Willson JA. An increase in infant cranial deformity with supine sleeping position. J Craniofac Surg. 1996 Jan;7(1):5-11.
5) Mawji A. The Incidence of Positional Plagiocephaly : A Cohort Study. Pediatrics. 2013;132:298–304. doi: 10.1542/peds.2012-3438.
6) Bialocerkowski AE, Vladusic SL, Wei Ng C : Prevalence, risk factors, and natural history of positional plagiocephaly : a systematic review. Dev Med Child Neurol 2008; 50: pp. 577-586.
7) Nuysink J, Eijsermans MJC, van Haastert IC, et. al. Clinical course of asymmetric motor performance and deformational plagiocephaly in very preterm infants.J Pediatr 2013; 163: pp. 658-665.
8) Rogers GF, Oh AK, Mulliken JB: The role of congenital muscular torticollis in the development of deformational plagiocephaly.Plast Reconstr Surg 2009; 123: pp. 643-652.
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