前回の続きになります。今回は乳幼児喘息の分類について説明していきます。
この記事の目次
乳幼児喘息の分類について
まずガイドラインに記載されている下図をご覧ください
反復性喘鳴の大きな枠の中に乳幼児喘息の診断があります。乳幼児喘息はIgE関連喘息と非IgE関連喘息の2つに分類されます。乳幼児期から年齢を重ねて学童期になると、IgE関連喘息からアトピー型喘息に名称が変更になります。
学童期の80-90%がアトピー型喘息です。つまりIgE関連喘息である場合はアトピー型喘息に移行し成人へ喘息が持ち越されやすいというわけです。
ここで、「IgE」という新しい用語がでてきました。説明します。
(少し難しいのでよくわからなければ、「簡単に言うと」まで軽く読み飛ばしてください)
IgEは免疫グロブリンの一種です。免疫グロブリンとは、抗体としての機能と構造をもつタンパク質のことです。
IgE抗体は肥満細胞と呼ばれる細胞と結合しており、アレルギーの原因物質(アレルゲン)と出会うことで、肥満細胞からヒスタミンが放出されます。このヒスタミンによりアレルギー反応が引き起こされます。
気管支喘息、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎などの疾患でIgEが上昇することがわかっています。
簡単に言うと、「アレルギー体質の人はIgEが上昇する!」このイメージでいいと思います。
成人に持ち越される可能性が高いIgE関連喘息の所見について説明してきます。
IgE関連喘息について
IgE関連喘息の所見は
・両親のどちらかが医師に喘息と診断されたことがある。
・児にアトピー性皮膚炎がある。
・吸入アレルゲンに対する抗体がある。(つまりスギ花粉、ヒノキ花粉症、ハウスダストアレルギーがある)
・気道感染症がないにも関わらず喘鳴がある。
これらの所見があるとIgE関連喘息と分類されます。
アレルギー体質があって、喘鳴を繰り返すのがこのIgE関連喘息であり、成人に移行する可能性が高いことになります。
これらがなければ非IgE関連喘息と分類されます。
非IgE関連喘息について
非IgE関連喘息の原因はウイルス感染、たばこ、冷気の暴露で引き起こされる喘息です。
ウイルス感染と喘息発症の関連性は既に認められています。モンゴルの小児例での検討では、1歳以内で重症呼吸器感染症にかかった場合、6歳で喘息が多いという報告1)があります。
また、乳児期の重症RSウイルス感染では、5歳時に反復性喘鳴やIgE関連喘息が多いという報告2)もあります。RSウイルスについてはその他の研究もされています。
RSウイルス感染の予防として抗 RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤(パリビズマブ)というものがあります。早産児に保険適応で投与可能なワクチンで、RSウイルス感染を予防します。
在胎33-35週の早産児にパリビズマブを投与することで3歳までの反復性喘鳴を予防することが出来たという報告3)があります。さらに追加で4-6歳までフォローした場合でも反復性喘鳴は継続して予防されました4)。
RSウイルス感染を予防すれば喘鳴を予防出来るというのがこの論文の主旨なのですが、RSウイルスは1歳までに約70%の児、2歳までにほぼすべての児が感染するといわれており5)感染を予防することは正直難しいです。
もし感染した場合は半数以上に児が喘鳴を反復し6)、喘鳴、喘息の危険因子になると報告7)があります。これは実際に親御さんが経験されている通りです。
そのため、前回のブログで紹介した世界の喘鳴の分類の中に非アトピー型喘鳴群がありました。本来ならウイルス感染での喘鳴は 非アトピー型喘鳴群に当てはまるのですが、RSウイルス感染症だけ顕著に喘鳴がおきるため、別のタイプなのではないかという議論がでています。その図が下記になります。
このように、RSウイルス感染による反復性喘鳴は別のタイプである可能性があり研究が進んでいます。6歳以降でこのグラフがどのように伸びていくかは今後の結果次第です。
ピークアウトして下がっていくグラフであることを祈っています。
これで分類については一旦終了します。
ここまでのまとめ
反復性喘鳴が3回あると、乳幼児喘息の診断になった。
乳幼児喘息はIgE関連喘息と非IgE関連喘息の2つに分類された。
年齢があがるとIgE関連喘息からアトピー型喘息に名称が変わる。
学童期の80-90%がアトピー型喘息で成人に喘息が持ち越される。
IgE関連喘息はアレルギー体質があって、喘鳴を繰り返す。
非IgE関連喘息はアレルギー素因がないもの。原因はウイルス感染、たばこ、冷気。
RSウイルスに感染すると反復して喘鳴をおこし喘息のリスクになる。
しかし2歳までにほぼ全員感染するため、感染を予防出来ない。
RSウイルス反復性喘鳴は違うグループなのではないかという議論がされている。
以上になります。次回は喘息の治療について説明していきます。
1) Yoshihara S, Munkhbayarlakh S, Makino S, Ito C, Logii N, Dashdemberel S, Sagara H, Fukuda T, Arisaka O. Prevalence of childhood asthma in Ulaanbaatar, Mongolia in 2009. Allergol Int. 2016 Jan;65(1):62-7. doi: 10.1016/j.alit.2015.07.009. Epub 2015 Aug 29. PMID: 26666488.
2) Yamada Y, Yoshihara S. Creola bodies in infancy with respiratory syncytial virus bronchiolitis predict the development of asthma. Allergol Int. 2010 Dec;59(4):375-80. doi: 10.2332/allergolint.09-OA-0165. Epub 2010 Sep 25. PMID: 20864800.
3) Yoshihara S, Kusuda S, Mochizuki H, Okada K, Nishima S, Simões EA; C-CREW Investigators. Effect of palivizumab prophylaxis on subsequent recurrent wheezing in preterm infants. Pediatrics. 2013 Nov;132(5):811-8. doi: 10.1542/peds.2013-0982. Epub 2013 Oct 14. PMID: 24127479.
4) Mochizuki H, Kusuda S, Okada K, Yoshihara S, Furuya H, Simões EAF; Scientific Committee for Elucidation of Infantile Asthma. Palivizumab Prophylaxis in Preterm Infants and Subsequent Recurrent Wheezing. Six-Year Follow-up Study. Am J Respir Crit Care Med. 2017 Jul 1;196(1):29-38. doi: 10.1164/rccm.201609-1812OC. Erratum in: Am J Respir Crit Care Med. 2018 Mar 1;197(5):685. PMID: 28152315.
5) Glezen WP, Taber LH, Frank AL, Kasel JA. Risk of primary infection and reinfection with respiratory syncytial virus. Am J Dis Child. 1986 Jun;140(6):543-6. doi: 10.1001/archpedi.1986.02140200053026. PMID: 3706232.
6) Carlsen KH, Larsen S, Bjerve O, Leegaard J. Acute bronchiolitis: predisposing factors and characterization of infants at risk. Pediatr Pulmonol. 1987 May-Jun;3(3):153-60. doi: 10.1002/ppul.1950030308. PMID: 3615038.
7) Sigurs N, Aljassim F, Kjellman B, Robinson PD, Sigurbergsson F, Bjarnason R, Gustafsson PM. Asthma and allergy patterns over 18 years after severe RSV bronchiolitis in the first year of life. Thorax. 2010 Dec;65(12):1045-52. doi: 10.1136/thx.2009.121582. Epub 2010 Jun 27. PMID: 20581410.
コメントを残す