気管支喘息についてのアップデートvol.2:気管支喘息があると新型コロナウイルス感染で悪化するの?

前回の続きになります。少しずつデータが蓄積されていくとわかってくることが増えてきます。最新の論文に移行していきましょう。

気管支喘息治療において、経口ステロイドを使用していると重症化する

イギリスの1,700万人を対象にした死亡率のリスク要因を調査した論文1)です。

喘息の部分をご覧ください。
経口ステロイド(OCS)を使用している群だけ重症化、死亡率の増加がみられました。(肥満とかに比べれは差が小さいですが)
経口ステロイドを内服していなければ重症化、死亡率は増加していないことがわかります。
同様に75,000人の入院患者を16-49歳と50歳以上で比較検討したISARIC試験という論文2)の紹介す。


この表をみていただくと重症喘息だけ重症化のリスクであることがわかります。
吸入ステロイドのみ(ICS)やSABA(短期間作動型の気管支拡張剤)LABA(長時間作動型の気管支拡張剤)の使用で気管支喘息をコントロールされている場合、死亡率の増加はありませんでした。
この論文ではICUにはいると喘息で重症化するリスクが特に50歳以上で高くなるということも記載がありました。

そして、150の論文を解析したメタアナリシスの報告3)では、喘息の重症度が重度であっても重度でなくても有病率、死亡率に差はないというデータでした

そのため、3つの論文をまとめると、
吸入ステロイドを使用していることは感染のリスクではないこと。
注意すべきは、経口ステロイドを使用している重症気管支喘息の方
であることがわかりました。
気管支喘息だからといって新型コロナウイルス感染に対し極度に恐れる必要はないことがわかってきたのはよいことです。

次からは補足的な情報に関しての論文を紹介していきます。

気管支喘息のコントロールに生物学的製剤を使用していても新型コロナウイルスのリスクとは関連しない

親御さんの中には気管支喘息の治療に生物学的製剤を使用してコントロールされている方もいらっしゃいましたので補足として論文4)を紹介します。
80,602人を対象に重症化リスクを検討しています。

この図はとてもわかりやすいですね。
ここでも再度吸入ステロイドでのコントロールはリスクをあげないこと経口ステロイドの使用がリスクをあげることが繰り返し述べられていますが、この論文では生物学的製剤の使用でもリスクは上がらないと記載があります。
(ここからは深すぎる内容なのでさらっと流してもらってよいのですが、関連する方はとても嬉しい情報なので少し記載します。デュピルマブ(デュピクセント)で死亡率を下げるという論文5)もあります。なので大学病院等で生物学的製剤を使用している方は概ね安全に使用でき、吸入ステロイドと生物学的製剤でコントロールしたほうがこれからのウィズコロナの時代では健康が守られる可能性が高いことがわかってきました!)

点鼻ステロイドと吸入ステロイドはACE2受容体を低下させ感染予防する

この内容は以前の記事で説明しましたが、新型コロナウイルスはACE2受容体から侵入することがわかっています。(詳しく知りたい方は下記記事を参照)

そして吸入ステロイドや点鼻ステロイドはこのACE2受容体を低下させることがわかっています。
そのため吸入、点鼻ステロイドの使用でウイルスの侵入を防ぐことが出来るよ!というわけです。
視覚的にわかりやすい論文6)の図をみながら再確認していきましょう。

まず上の鼻からです。点鼻ステロイド使用することでウイルスの侵入を防ぐ機序が記載されています。ACE2受容体が低下することで、鼻からのウイルスの侵入が防御されます。

次に下の肺の図です。吸入ステロイドの使用で同様にACE2受容体を低下させ肺へのウイルスの侵入を防御します。
ただし、一番下の全身の図にあるとおり、全身性ステロイドの使用は炎症を下げることは出来るが、重症化のリスクになるということがわかります。

入院患者においては、アレルギー性鼻炎と気管支喘息の患者で新型コロナウイルス感染で重症化する可能性がある

この内容は韓国の新型コロナウイルス感染7,340人を対象にした論文7)の内容です。
入院患者においては、気管支喘息、特に非アレルギーの喘息とアレルギー性鼻炎の人はコロナの重症化リスクが高いという内容です。なんでこの論文を紹介したかったかというと、ここで初めてアレルギー性鼻炎が登場しているからです。

オッズ比は低いですが、入院となるとアレルギー性鼻炎が関与するようです。
なので、先ほどの点鼻ステロイドはアレルギー性鼻炎がひどい方はしっかり治療したほうがよいよ!というメッセージを再度したかったからです。
ちなみにですが、この表では非アレルギー喘息(Non-allergic asthma)のオッズだけ特に高いことがわかります。現在、気管支喘息のタイプによってなぜ予後が異なるのかについてはまだわかっていません。

以上になります。
やや難しい内容だったと思いますし、小児よりは成人、高齢者の方向けの内容でした。
ただ、この内容はクリニックで診療をしていると意外とよく聞かれた質問でした。
この内容を診療時間内に説明することは限りなく難しく、1度まとめる必要があるなと自覚していました。
ブログ記事作成の1番大事な理由は説明の補助的役割です。
もっとわかりやすく記載することが出来ればよいのですが、なかなか難しいですね。これからも努力します!
そして写真はスカイをかなり意識しました笑
スカイマークは比較的安い運賃で利用出来るのに、席もゆとりがあり、機内でおいしいコーヒーをいただけるので大好きな航空会社の1つです。

1) Williamson EJ, Walker AJ, Bhaskaran K, Bacon S, Bates C, Morton CE, Curtis HJ, Mehrkar A, Evans D, Inglesby P, Cockburn J, McDonald HI, MacKenna B, Tomlinson L, Douglas IJ, Rentsch CT, Mathur R, Wong AYS, Grieve R, Harrison D, Forbes H, Schultze A, Croker R, Parry J, Hester F, Harper S, Perera R, Evans SJW, Smeeth L, Goldacre B. Factors associated with COVID-19-related death using OpenSAFELY. Nature. 2020 Aug;584(7821):430-436. doi: 10.1038/s41586-020-2521-4. Epub 2020 Jul 8. PMID: 32640463; PMCID: PMC7611074.
2) Bloom CI, Drake TM, Docherty AB, Lipworth BJ, Johnston SL, Nguyen-Van-Tam JS, Carson G, Dunning J, Harrison EM, Baillie JK, Semple MG, Cullinan P, Openshaw PJM; ISARIC investigators. Risk of adverse outcomes in patients with underlying respiratory conditions admitted to hospital with COVID-19: a national, multicentre prospective cohort study using the ISARIC WHO Clinical Characterisation Protocol UK. Lancet Respir Med. 2021 Jul;9(7):699-711. doi: 10.1016/S2213-2600(21)00013-8. Epub 2021 Mar 4. PMID: 33676593; PMCID: PMC8241313.
3)Terry PD, Heidel RE, Dhand R. Asthma in Adult Patients with COVID-19. Prevalence and Risk of Severe Disease. Am J Respir Crit Care Med. 2021 Apr 1;203(7):893-905. doi: 10.1164/rccm.202008-3266OC. PMID: 33493416; PMCID: PMC8017581.
4) Adir Y, Humbert M, Saliba W. COVID-19 risk and outcomes in adult asthmatic patients treated with biologics or systemic corticosteroids: Nationwide real-world evidence. J Allergy Clin Immunol. 2021 Aug;148(2):361-367.e13. doi: 10.1016/j.jaci.2021.06.006. Epub 2021 Jun 15. PMID: 34144110; PMCID: PMC8205279.
5) Donlan AN, Mallawaarachchi I, Sasson JM, Preissner R, Loomba JJ, Petri WA. Dupilumab Use Is Associated With Protection From Coronavirus Disease 2019 Mortality: A Retrospective Analysis. Clin Infect Dis. 2023 Jan 6;76(1):148-151. doi: 10.1093/cid/ciac745. PMID: 36104868; PMCID: PMC9494491.
6) Carr TF, Kraft M. Asthma and atopy in COVID-19: 2021 updates. J Allergy Clin Immunol. 2022 Feb;149(2):562-564. doi: 10.1016/j.jaci.2021.12.762. Epub 2021 Dec 21. PMID: 34942236; PMCID: PMC8687714.
7) Yang JM, Koh HY, Moon SY, Yoo IK, Ha EK, You S, Kim SY, Yon DK, Lee SW. Allergic disorders and susceptibility to and severity of COVID-19: A nationwide cohort study. J Allergy Clin Immunol. 2020 Oct;146(4):790-798. doi: 10.1016/j.jaci.2020.08.008. Epub 2020 Aug 15. PMID: 32810517; PMCID: PMC7428784.

2件のコメント

とてもとても有益な情報をありがとうございます!息子にとってもですが、私にとってとてもとても大切な情報でした。分かりやすく端的にご説明くださり、感謝いたします。

実は今、デュピクセントからテゼスパアイ(テゼペルマブ)に乗り換えたところ、アナフィラキシーショックを連続で起こしてしまい、バイオ自体をお休みして点滴と経口ステロイドで誤魔化していました。ステロイドの長期多量使用で副作用もかなりでていましたので、どこかの段階でデュピクセントを再開しようと悩んでいたところでした。この視点での情報が余り得られていなかったので、ブログで取り上げてくださり、本当にありがたく思っています!

あんこ様

そうでしたか。ブログ記事の作成は私の頭の整理でもあるのですが、たしかに今回の記事のデュピクセントの部分はあんこ様へ書いたようなブログ記事でしたね笑。
そしてあんこ様が誰だかわかってしまいましたね。

そうなんです。アレルギー学会では生物製剤を利用した研究の報告がトピックスで、やはり研究費の問題から海外の先生が先行して研究をだされそれと同じ研究を数年後に日本がやるという流れです。
(どうしても厚労省の許可がおりないので。)なので、コロナワクチンの時もそうでしたが、海外の研究結果をみてある程度の予測をしておくのがやはりよいです。
現状は生物製剤は安全に使用できるためかかりつけの先生とアナフィラキシーの有無を確認しながら喘息のコントロールをしていただくとよいかもしれませんね。

今後ともよろしくお願い致します。
能登

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。