気管支喘息について vol.5 (ステロイドの副作用について)

続きになります。今回の記事はステロイドの副作用についてです。

ステロイドの副作用について

ステロイドの副作用をネットで検索すると、いろいろ怖いことが記載されています。
例えば、易感染性(免疫力が低下する)、高血糖、高血圧、胃潰瘍、骨粗鬆症(骨がもろくなる)白内障、緑内障、皮膚症状(毛深くなる、にきびが出来る)などがでてくると思います。
ステロイドの内服や注射薬は、全身にわたって作用しますので、ステロイドを長期間内服した際にのみ上記の副作用が生じます。喘息発作の際に数日使用する程度では問題はありません。
そして喘息の治療は全身性のステロイドではなく吸入ステロイドを使用しますので上記のような副作用は出現しません。

吸入ステロイド薬は、気管支、肺に直接届くため全身性ステロイドの100分の1程度のわずかな量でも十分に効果を発揮します。吸入した後に、吸入ステロイド薬の一部は口の中に残って胃腸で吸収されます。(だから吸入後のうがいや飲水が大事!)
ですが非常に少ない量のため、それもすぐに肝臓で分解されます。
以上の原理から内服薬のような副作用は吸入では起こらないのです。

そのため、ステロイドを極端に拒否するのではなく、内服の全身性ステロイドと吸入ステロイドの副作用は別にして考えることが重要です。
それでも吸入ステロイドの副作用が心配な方は多いと思いますから、副作用についての論文を紹介していきましょう。

小児においては、吸入ステロイドのフルタイド(フルチカゾンプロピオン酸エステル)200μg以下(中用量)であれば全身性の副作用は問題ないという報告が実際にあります1)
骨、皮膚、眼疾患の副作用についても小児での報告はありません2)
その他口の中の違和感や口腔内カンジダ症が副作用にあげられますが、吸入後のうがいや飲水で予防出来ます。
また吸入ステロイドを使用することで、呼吸器感染症にかかりやすくなるとことはないと報告があります3)
吸入ステロイドの1番の問題は身長についてです。詳しく説明ましょう。

軽症から中等症の喘息の子供8471人(吸入ステロイド治療(低-中用量)5128人およびコントロール3343人)の身長をフォローした研究4)です。
吸入ステロイドは3か月から6年間使用していました。
最初の1年で平均0.48cm/年成長がコントロール群と比較して抑制されたという報告です。
2年目以降はコントロール群と比較して成長抑制はありませんでした。
そのため、最初の1年のみ成長抑制がきて、その後は年毎にはほとんどコントロールと変わらない結果でした。
吸入ステロイドを中止すると、身長の伸びは少し回復するように見えましたが、コントロール群と比較して明らかに回復するということは証明されませんでした。低用量と中容量で差もありませんでした。
成人期までフォローした報告では、平均3年間吸入ステロイドを使用した場合、最終的に男性0.8㎝、女性1.8cmの成長抑制があり、男女平均で1.2㎝の成長抑制があったという内容です3)

またステロイドの種類による差では、フルチカゾン(フルタイド)がブデゾニド(パルミコート)、ベクロメタゾン(キュバール)と比較して1番身長が抑制されませんでした5)
これらの論文の作者は吸入ステロイドを使用して喘息を予防するメリットからすると身長の問題は小さい副作用であると記載がされています。ガイドラインでも適切な投与を心がけることを推奨しています。

最初の1年で身長抑制がかかってしまうため、長期間使用しなかったからといって予防出来るものではありません。
吸入ステロイドによって身長が成人において平均1.2㎝低くなることのデメリットと、喘息のコントロールがよく生活できるメリットを治療をうける本人と家族が検討する必要があります。
しかし、喘息のコントロールがつかない場合、生活の質が極端に落ちてしまいます。
これらの副作用の報告は、無駄な吸入ステロイドの投与を避けましょうという意味合いが強いと私は考えています。

高用量の吸入ステロイドをされている方は大学病院等のかかりつけの先生と相談しながらステロイドの副作用を定期的に採血等で確認していただくほうがよいと思います。

治療のステップダウンについて

コントロールが良好である状態が3か月以上継続すれば追加治療薬の中止、ステップダウンを検討することになっています。
6歳以上の小児から成人までの解析では、コントロールが良好であれば吸入ステロイドの量を半分に減量しても症状に影響がでないことがわかっています6)

しかし、低用量吸入ステロイドの中止は喘息発作の頻度が増加することが報告されています7)
そのため、吸入ステロイド漸減は出来ても、中止することが1つの大きな関門になるということです。

ここまでのまとめ

ステロイドの副作用は内服点滴の全身性ステロイドと吸入ステロイドでわけて考える。
吸入ステロイドの副作用は全身性に比べて少なく、中用量までであれば全身性の副作用は問題ない。
吸入後はうがい、飲水をすることで口の中の副作用は予防出来る。
吸入ステロイド1年間使用で身長が抑制される可能性がある。
治療経過が3か月以上良好である状態が継続すれば、吸入ステロイドを漸減、中止を検討する。

以上になります。次は吸入器具について説明します。

1) Visser MJ, van der Veer E, Postma DS, Arends LR, de Vries TW, Brand PL, Duiverman EJ. Side-effects of fluticasone in asthmatic children: no effects after dose reduction. Eur Respir J. 2004 Sep;24(3):420-5. doi: 10.1183/09031936.04.00023904. PMID: 15358701.
2) Hossny E, Rosario N, Lee BW, Singh M, El-Ghoneimy D, Soh JY, Le Souef P. The use of inhaled corticosteroids in pediatric asthma: update. World Allergy Organ J. 2016 Aug 12;9:26. doi: 10.1186/s40413-016-0117-0. PMID: 27551328; PMCID: PMC4982274.
3) Cazeiro C, Silva C, Mayer S, Mariany V, Wainwright CE, Zhang L. Inhaled Corticosteroids and Respiratory Infections in Children With Asthma: A Meta-analysis. Pediatrics. 2017 Mar;139(3):e20163271. doi: 10.1542/peds.2016-3271. PMID: 28235797.
4) Zhang L, Prietsch SO, Ducharme FM. Inhaled corticosteroids in children with persistent asthma: effects on growth. Evid Based Child Health. 2014 Dec;9(4):829-930. doi: 10.1002/ebch.1988. PMID: 25504972.
5) Axelsson I, Naumburg E, Prietsch SO, Zhang L. Inhaled corticosteroids in children with persistent asthma: effects of different drugs and delivery devices on growth. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jun 10;6(6):CD010126. doi: 10.1002/14651858.CD010126.pub2. PMID: 31194879; PMCID: PMC6564081.
6) Hagan JB, Samant SA, Volcheck GW, Li JT, Hagan CR, Erwin PJ, Rank MA. The risk of asthma exacerbation after reducing inhaled corticosteroids: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Allergy. 2014 Apr;69(4):510-6. doi: 10.1111/all.12368. Epub 2014 Feb 26. PMID: 24571355.
7) Rank MA, Hagan JB, Park MA, Podjasek JC, Samant SA, Volcheck GW, Erwin PJ, West CP. The risk of asthma exacerbation after stopping low-dose inhaled corticosteroids: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Allergy Clin Immunol. 2013 Mar;131(3):724-9. doi: 10.1016/j.jaci.2012.11.038. Epub 2013 Jan 12. PMID: 23321206.

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。