気管支喘息についてのアップデートvol.1:気管支喘息があると新型コロナウイルス感染で悪化するの?

気管支喘息の知識のアップデートです。
気管支喘息と新型コロナウイルス感染症の関係についてです。
題名の質問をクリニックで診療をしていた際によく受けました。結論は、

重症喘息の診断をうけている、ステロイドの内服をしている場合は高リスクであるため注意が必要!

になります。
ステロイドの内服をせずにコントロールされている気管支喘息の方は新型コロナウイルス感染症の罹患で重症化や死亡率の増加はありません。

今回は小児に特化しているというよりも全年齢層にむけての内容になりますので、お子さんが気管支喘息に罹患している場合、親御さんも気管支喘息であることがあります。
少し難しいですが、ご自身の健康維持のためにも知識をアップデートしておきましょう。
まず、2020年から2023年までの新型コロナウイルス感染症について振り返りから進めていきましょう。

新型コロナウイルスの現在の状況:累計入院数と死亡数

アメリカのCDCが公表しているデータ1)で現在の新型コロナウイルスの状況を振り返りましょう。
まず、コロナウイルスによる累計入院数と死亡数の推移の表です。青の縦棒が入院数、オレンジが死亡数の推移です。

このグラフをみてわかる通り、累計の入院数は右肩上がりですが、オレンジの死亡数は下がっています。
では、年齢別の死亡数を見てみるとどうでしょうか。

2020年1月から2023年10月31日までの表です。以前から言われている通り、若年層での死亡数は高齢者と比較するとくらべものにならないくらい少ないことが視覚的にわかると思います。
そして高齢者の死亡数もコントロールできるようになってきました。

新型コロナウイルスの現在の状況:ワクチン接種率

次にワクチン接種率についてです。

少なくとも1回以上ワクチン接種をしている割合は全体の81.4%でとても高いワクチン接種率であることがわかります。死亡率の高い高齢者はもちろん高い接種率です。次は追加接種の割合です。

やはり高齢者は43.3%とそこそこ高い接種率がキープされていますが、全体でみれば17%がブースターワクチンの接種率です。
もう新型コロナウイルスに慣れてきて恐怖を感じなくなり、追加接種の割合も下がってきていることがデータからわかります。

ウィズコロナ時代へ

今のところアメリカのデータをお示ししましたが、2023年5月に5類感染症に変更になりましたので厚生労働省のデータがそこで途切れています。だだ、概ね日本も同様の流れです。

以上のデータをまとめると、何事も絶対はありませんが、小児においては死亡率が高齢者と比較して低いため、気管支喘息の有無に関わらず極度に心配する必要はないかもしれません
そしてワクチン接種率から、新型コロナウイルスに人々が慣れてきたことがデータからわかります。
多くの人にとってウィズコロナの時代に突入しています。(知ってるよとツッコミが入りそうですが)
つまり今後も繰り返し新型コロナウイルスに罹患することが普通の状況になるということで、改めて気管支喘息患者が新型コロナウイルス感染症に罹患するとどうなるかを知っておく必要があるということになります。

喘息発作は感染により惹起され、特に、RSウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルスにより喘息が悪化することが既にわかっています
またステロイドや生物学的製剤を使用しているため肺炎を含む感染症に罹患しやすいことを喘息患者は知っています。
そのため、気管支喘息患者は新型コロナウイルス感染により増悪するのではないかと2020年は特に心配されていました。
本当に新型コロナウイルス感染症の罹患で気管支喘息が悪化するのかを論文を確認しながら検証していきましょう。

2020年の初期の疫学データの振り返り:気管支喘息患者の新型コロナウイルス罹患の頻度は高くない

新型コロナウイルス感染症が蔓延しはじめた武漢での初期の疫学データの論文2)です。

表にある通り、気管支喘息の患者は新型コロナウイルス感染症全患者(548人)の1%未満だったため、武漢においては気管支喘息の方は初期に感染していなかったことがわかります。
次はイタリア、ロンバルディーの疫学を調査した論文3)です。

喘息はOther、その他でリスクではないという結果でした。
同様にニューヨークの論文4)です。

5,700人の患者において気管支喘息患者は9%の479人であり、もともとの気管支喘息の罹患割合と同じであるため特別なリスクではないと判断されていました。
以上3つの論文をまとめると、過少報告されている可能性がありますが、気管支喘息患者が新型コロナウイルス感染症において特別高い確率で罹患するということはない!ということがわかりました。

次の記事ではどのような気管支喘息の患者が重症化するのか、死亡率が上がるのかを紹介していきましょう。

1) https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#trends_cumulativehospitalizations_weeklypctdeaths_00 (2023年12月18日アクセス)
2) Li X, Xu S, Yu M, Wang K, Tao Y, Zhou Y, Shi J, Zhou M, Wu B, Yang Z, Zhang C, Yue J, Zhang Z, Renz H, Liu X, Xie J, Xie M, Zhao J. Risk factors for severity and mortality in adult COVID-19 inpatients in Wuhan. J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul;146(1):110-118. doi: 10.1016/j.jaci.2020.04.006. Epub 2020 Apr 12. PMID: 32294485; PMCID: PMC7152876.
3) Grasselli G, Zangrillo A, Zanella A, Antonelli M, Cabrini L, Castelli A, Cereda D, Coluccello A, Foti G, Fumagalli R, Iotti G, Latronico N, Lorini L, Merler S, Natalini G, Piatti A, Ranieri MV, Scandroglio AM, Storti E, Cecconi M, Pesenti A; COVID-19 Lombardy ICU Network. Baseline Characteristics and Outcomes of 1591 Patients Infected With SARS-CoV-2 Admitted to ICUs of the Lombardy Region, Italy. JAMA. 2020 Apr 28;323(16):1574-1581. doi: 10.1001/jama.2020.5394. Erratum in: JAMA. 2021 May 25;325(20):2120. PMID: 32250385; PMCID: PMC7136855.
4) Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, Crawford JM, McGinn T, Davidson KW; the Northwell COVID-19 Research Consortium; Barnaby DP, Becker LB, Chelico JD, Cohen SL, Cookingham J, Coppa K, Diefenbach MA, Dominello AJ, Duer-Hefele J, Falzon L, Gitlin J, Hajizadeh N, Harvin TG, Hirschwerk DA, Kim EJ, Kozel ZM, Marrast LM, Mogavero JN, Osorio GA, Qiu M, Zanos TP. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA. 2020 May 26;323(20):2052-2059. doi: 10.1001/jama.2020.6775. Erratum in: JAMA. 2020 May 26;323(20):2098. PMID: 32320003; PMCID: PMC7177629.

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。