フルミストと注射型インフルエンザワクチン、小児ではどちらがよい?

従来、日本では注射型の不活化インフルエンザワクチンが主流でした。
ですが欧米で20年以上の長い実績を持ち、針を使わずに鼻から噴霧するワクチン「フルミスト」が注目され、昨年から日本でもフルミスト接種が可能になりました。

この記事では、フルミストと注射型ワクチンを比較し、効果・安全性・副作用等をエビデンスに基づいて解説し最後に私の個人的な考えを説明していきたいと思います。

いつものようにまずは結論から

迷ったら注射型を選択して従来通り痛みに耐えて頑張る
注射が嫌な子に関してはフルミスト接種を推奨

になります。

では説明していきましょう。

フルミストとは?注射型ワクチンとの違い

フルミスト:経鼻生ワクチン

フルミストは経鼻生ワクチンです。
生ワクチンとは弱毒化した生きたインフルエンザウイルスを鼻から噴霧することで免疫をつけます。
そのため、弱毒化しているとはいってもウイルス自体は生きているため、ワクチン接種によって感染する可能性が0ではないとうことが懸念点としてあげられます。
(弱毒化ウイルスは低温でのみ増殖する特性があります。そのため鼻腔内の低温でのみウイルスが増殖し、ワクチンとして機能します。しかし、肺などの高温部ではウイルスが増殖しないように設計されているためワクチンによる感染が限りなく少ないというのが理論になります1)。CDCはサイト内で感染の可能性はないと言い切っていますが、0ではありません。)

  • 鼻からスプレーするだけで接種可能
  • 回数は1回
  • 2〜18歳が対象(気管支喘息・強い鼻炎がある場合は接種不可)
  • 局所免疫(鼻・喉の粘膜)でより強い免疫防御を作ることが出来る(粘膜のIgA抗体が作られるから)

(海外では2-18歳ではなく、2-49歳で適応範囲が違うことに注意が必要です。)

注射型ワクチン:不活化ワクチン

従来の注射で接種するワクチンは不活化ワクチンです。不活化ワクチンは死んだウイルス成分のみを含むため、不活化ワクチンを接種することでインフルエンザに感染する心配がないことが特徴です。

  • 皮下に注射
  • 回数は12歳までは2回接種、13歳以上は1回接種。
  • 6か月以上で接種可能
  • 気管支喘息・強い鼻炎がある場合でも接種可能

大きな違いは「生ワクチン vs 不活化ワクチン」「投与経路(鼻 vs 注射)」「投与回数(鼻1回 vs 注射年齢により2回)」
この3点になります。

効果の比較:どちらのワクチンのほうが有効性があるか?

まず有名な2007年の論文2)から紹介します。
生後6〜59か月児7,852人を対象に、フルミストと注射を比較したところフルミスト群でインフルエンザの発症率が注射群と比較し54.9%低下したと報告されています。

この論文以降いろいろな研究がされ、フルミストと注射を比較検討したまとめが2024年の論文3)で発表され、フルミストと注射の効果、有効性はほぼ同等であり、年齢やシーズンによってはフルミストの方が優れるという結論となっています。

そのため有効性だけでみればどちらのワクチンでも構わないということになります。

小児における抗体持続期間は?

注射におけるワクチンの効果の持続期間は約5-6か月と報告があります4)
フルミストの抗体持続期間に関しては6か月は持続し、症例によっては12か月を通じて防御効果が持続する5,6)ことも報告されています。

フルミストは注射よりも抗体持続期間が長いため、季節はずれのインフルエンザ流行期においては発症予防効果が高い可能性があります。
ですが、一般的な感染流行期における抗体持続期間もどちらのワクチンでも構わないというのが結論です。

安全性の比較

フルミストの安全性についても海外で多数報告がありますが昨年より日本で使用が開始されましたので、第一三共さんの日本人の小児の副反応の報告7)を確認していきましょう。副反応の重要なポイントは注射をせずに鼻に噴霧するため鼻炎症状が1番多いという点です。

  • 鼻水・鼻づまりが1番(約20%)多く、一過性の発熱や咳(約7%)が出ることもある。
  • 今回の日本の報告では2365人中1人がアナフィラキシーがみられましたが、海外ではアナフィラキシーは100万回あたり約2例と報告があります。

では注射型ワクチンではどうでしょうか。同じ第一三共さんの添付文書8)を確認すると、

  • 注射をしますから最も多い副反応は注射部位の痛み・腫れ(約20%)
  • 発熱(約10%)・倦怠感(約8%で、アナフィラキシーはごくまれ(100万回に1〜2例程度)

まとめると両者とも安全性はとても高いことがわかります。ただし、副反応の種類が異なる点に注意が必要です(鼻症状 vs 注射部位反応)

接種のしやすさ

  • フルミスト:鼻にスプレーするだけ → 痛みなし、泣かない可能性が高い
  • 注射:針を刺すため痛みがある → 接種を嫌がる子が多い

鼻にスプレーされるのも嫌がるとは思いますが、痛くはありません。1度慣れてしまえば怖い思いをしないと記憶されると思います。

フルミストは1回の投与、注射は6か月から12歳までは2回の注射です。
接種のしやすさでは、2歳以上であれば痛みもなく回数が1回のフルミストが優位となります。

対象年齢・制限

  • フルミスト:2〜18歳(ただし、気管支喘息で毎日吸入をしている方や免疫不全のある方には不可)
  • 注射型:6か月以上すべての人に接種可能

小さい赤ちゃんや基礎疾患(気管支喘息や免疫不全)がある子は注射一択となります。
そのため、フルミストに対して懸念があれば注射となります。

値段

板橋区のインフルエンザワクチンの助成金の内容が先日発表され、フルミストは4,000円の助成となります。

当院ではフルミスト税込み8,000円(板橋区在住の方は4,000円の補助がありますので税込み4,000円となります。)

インフルエンザワクチンの注射の金額は1回税込み4,000円となります。
(板橋区在住の方は2,000円の補助がありますので税込み2,000円となります。)
生後6ヶ月〜13歳未満 2回まで(助成額2,000円、2回合計4,000円
13歳〜高校3年生相当 1回(助成額2,000円)

そのため2歳から12歳であれば注射もフルミストも負担金額は同じです。

13歳から18歳では注射のほうが金額的にはお得となります。

よくある質問 鼻炎やアレルギーがあってもフルミストは打てますか?

→ 軽い鼻炎やアレルギーなら接種可能です。ただし重度の喘息がある場合は注射となります。点鼻薬を使用している場合も大丈夫です

結論:フルミストと注射、どちらを選ぶべきか?

  • 2歳未満や気管支喘息や免疫不全等の基礎疾患がある子 注射一択
  • 2歳以上13歳未満の健康な子ども → フルミストは痛みがなく、効果も同等以上で安全性も高く値段も変わらない。フルミストがおすすめ。
  • 13歳以上18歳までの健康な子ども→値段でいえば注射がお得。
  • 注射が怖い、嫌いな子どもフルミストがおすすめ

👉 つまり、「どちらがよいか」は年齢・健康状態・家庭の希望によって変わります。
注射一択ではなく、フルミストも選択肢の1つであることをぜひ知っていただければと思います。
迷ったら注射を選んでください。

従来通りで少なくとも間違いはないからです。

院長の個人的な意見

なぜ当院は原則フルミスト推しなのかを少し追加で説明したいと思います。

2024年9月20日、アメリカではフルミストを自己投与または介護者が投与することをFDAが承認しました1)
つまりアメリカでは将来的にインフルエンザワクチンを自分で接種する時代に突入するということを意味します。(まだ2025年シーズンでは自己投与解禁とまではいっていません)

そのため、いずれ日本でも医療機関で注射でインフルエンザワクチンを接種する時代から、自分でワクチンを接種する時代に移行すると考えています。(もちろん自分でうまく接種できないなど問題点はあると思いますので時間はかかると思います)

いずれ来るフルミスト接種が当たり前の時代にあえて注射を推奨する理由は逆にないかなと思います。

いろいろ書きましたが、1人の親として、1人の小児科医として、
子供に痛い思いを極力させたくないというのが1番の本心です。

実にシンプル。正直これだけでいいのではと思ってしまいますが、ワクチンに関してはコロナ以降いろいろありましたので説明させていただきました。
インフルエンザワクチン接種の意義は重症化予防です。そもそも接種するかしないかも含めてきちんとご家族で相談、検討されてください。

最後に、当院は注射型のワクチンを接種しないということではありません。

両方選択できますから安心ください。注射の予約枠や、フルミストの予約枠で注射と選択していただければワクチン接種は可能です。

ここまで説明しておいて、フルミストが全国的に人気となり皆さんに接種できなかったら本当に申し訳ないです。当院は開業1年半の弱小クリニックですからそこはお許しくださいね。

以上になります。

1) https://www.cdc.gov/flu/vaccine-types/nasalspray.html#gov-notice
2)Belshe RB, Edwards KM, Vesikari T, Black SV, Walker RE, Hultquist M, Kemble G, Connor EM; CAIV-T Comparative Efficacy Study Group. Live attenuated versus inactivated influenza vaccine in infants and young children. N Engl J Med. 2007 Feb 15;356(7):685-96. doi: 10.1056/NEJMoa065368. Erratum in: N Engl J Med. 2007 Mar 22;356(12):1283. PMID: 17301299.
3)Garai R, Jánosi Á, Krivácsy P, Herczeg V, Kói T, Nagy R, Imrei M, Párniczky A, Garami M, Hegyi P, Szabó AJ. Head-to-head comparison of influenza vaccines in children: a systematic review and meta-analysis. J Transl Med. 2024 Oct 4;22(1):903. doi: 10.1186/s12967-024-05676-9. PMID: 39367499; PMCID: PMC11453075.
4)B類疾病予防接種ガイドライン2024年度版
5)Mohn KG, Bredholt G, Brokstad KA, Pathirana RD, Aarstad HJ, Tøndel C, Cox RJ. Longevity of B-cell and T-cell responses after live attenuated influenza vaccination in children. J Infect Dis. 2015 May 15;211(10):1541-9. doi: 10.1093/infdis/jiu654. Epub 2014 Nov 25. PMID: 25425696; PMCID: PMC4407761.
6)Mohn KG, Smith I, Sjursen H, Cox RJ. Immune responses after live attenuated influenza vaccination. Hum Vaccin Immunother. 2018 Mar 4;14(3):571-578. doi: 10.1080/21645515.2017.1377376. Epub 2018 Jan 3. PMID: 28933664; PMCID: PMC5861782.
7)https://www.medicalcommunity.jp/filedsp/products$druginfo$news$2025$250916_flm1/field_file_url
8)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000020b41-att/2r98520000020b8o.pdf

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。