今回もスポーツ後のリカバリー、回復についてです。
前回の冷水療法はエビデンスがないことを説明しました。今回の伝えたい内容は
・最低9時間以上の睡眠時間の確保
・休養をとること(週1-2日の完全休養)
・栄養補給(運動後の糖質+タンパク質)
になります。既に知ってるわ!という声が聞こえてきそうですが、エビデンスを踏まえて内容をお伝えしていきたいです。
まずは一般的な小児のスポーツ後の疲労回復の知識から説明していきます。
この記事の目次
小児のスポーツ後の回復の特徴
- 小児は大人よりも回復が早い
小児は大人よりも有酸素代謝能力が非常に高く、強度の強い運動後も速やかに回復する特性を持っていることがわかっています。
運動後の心拍数低下が速く、乳酸の処理は大人より優れており、息切れしにくく回復も早いことが研究で示されています 1,2)。
- 骨や軟骨は弱く怪我しやすい
成長期の骨や軟骨はまだ柔らかく、繰り返しの負荷で痛みや障害(オスグッド病、疲労骨折など)が起こりやすいため、回復が早いことを理由に練習を増やすと、目に見えない疲労や怪我がおきやすいこともわかっています3)。
そんな小児の特徴を踏まえ、
睡眠・休養・栄養
この3つは運動のパフォーマンスを向上するだけでなく長期的な健康を守るカギとなります。どれも重要な回復の3本柱です。
では睡眠から説明していきましょう。
リカバリーの3本柱 1:睡眠
睡眠に関しては、アメリカ睡眠学会から小児、学童期における睡眠の提言4)がされています。その内容を確認するのがよいでしょう。
まず、睡眠についての一般的な説明です。
レム睡眠:浅い睡眠といわれ、記憶の整理等脳が活発に動いている睡眠。
ノンレム睡眠:深い睡眠といわれ、脳が休まり成長ホルモンが分泌される。
睡眠はノンレム睡眠から始まりレム睡眠にへ移行します。
睡眠は運動後の疲労回復に不可欠です。疲労回復には成長ホルモンが必要で、成長ホルモンが筋肉の修復、骨の形成、エネルギー貯蔵を管理するからです。
そのため、アスリートはレム睡眠の時間が短く、ノンレム睡眠の時間が長くなる傾向があるといわれています5)。
その上で、アメリカ睡眠学会は学童期(6~12歳)は少なくとも9~12時間の睡眠が必要で10代の若者(13~18歳)は8~10時間の睡眠をとるべきだと推奨しています。
睡眠は、判断力、集中力、意思決定といった高次認知機能にも重要であり、試合の勝敗を左右する可能性があります。また、学習と記憶にも役割を果たし、トレーニング中に新しいスキルを定着させるのに役立ちます。
毎晩8時間未満しか眠らない学生アスリートは、怪我をしやすいという報告があります。
12-18歳の学生を対象にした研究で、平均睡眠時間が8時間未満の学生は、8時間以上の学生と比較して、怪我の発生率が1.7倍高かったというものです6)。
メンタルに影響が及ぼすこと9時間以上(平均9.8時間)睡眠した参加者は、平均8.4時間睡眠の参加者と比較して、落ち着きがない、衝動的な行動をとるということが少なかった、その他免疫機能を伴った健康維持でも睡眠時間が長いほうがよいという結果4)もわかっております。
睡眠不足でよいことはありません。しっかり寝ましょう!
睡眠に関してはこの提言の内容があまりにも勉強になるので別の記事で後日紹介しようと思います。
リカバリーの3本柱 2:休養
休養に関してはアメリカ小児科学会が小児のスポーツにおける練習の過剰による怪我、燃え尽き症候群に関した報告7)で詳細が述べられています。
1 日に 1 つのスポーツのみに参加し(複数のスポーツをしない)、少なくとも 1週間に1日の完全休息を確保する必要があると記載されています。
そして、海外ならではの記載が、
「複数のスポーツやクロストレーニングに参加するアスリートは、スケジュールが重複しないようにする必要があり、1年に各スポーツから 2-3か月の休息を取る必要があります。」
という記載です。
例えば、アメリカのクラブ活動は1年を3シーズンと考えて、それぞれの期間中にクラブ活動を選択することになっています。例えば、1シーズン目はバスケット、2シーズン目は野球、3シーズン目はサッカーなどです。日本のように同じスポーツをずっとやるという文化ではありません。そのため、1日に1つのスポーツにする、複数のスポーツをする場合はスケジュールが重複しないように等の記載となっているわけです。面白いですよね。
そして1年に2-3か月休息をとりなさいと。(この休息は1ヶ月単位で区切ることもできます。)
「持続的に練習すること」のみで人間は成長すると私は思っていましたから、この内容に正直違和感を覚えました。
ですが継続した練習が燃え尽き症候群やオーバーユース症候群につながるということですから頭の片隅にこの情報はおいておかなければなりません。
休息の期間中は、レクリエーション、子ども主導のゲーム、自由遊びをしなさいと記載があります。ストレスの少ない環境を作ることで、身体活動、社会性の発達、神経、筋の発達を促進することにつながると記載がされています。(遊びを通じてリフレッシュし、スポーツ以外で体を動かしなさいという意味です)
まとめると、
「夏休み、冬休み、春休みくらいは練習しないで体を使って遊べ!」ということです。
論文の最後に、小児科医へのアドバイスとして
スポーツの参加を通して、スポーツをすること自体の楽しさ、スキルの習得、安全性、スポーツマンシップの獲得に焦点を置くべきである
と記載があります。確かになぁと改めて反省しました。
せっかく競技をするのなら高みを目指せ!優勝を目指せ!と、どうしても親も熱くなってしまいがちです。ですが、
スポーツをすることで子供達が、
・楽しいと思えること
・スキルを取得することで本人の達成感を感じること
・安全にスポーツをすること
・礼儀を通じたスポーツマンシップを取得すること
スポーツを通じて子供達が成長することが本来の目的でした。私の空手師範の吉野先生も同じようなことをお話されていました。
もちろんご家庭やチームの監督と相談にはなりますが、アメリカでは積極的に週に1回の完全休息と、年に数カ月の休息をとることが推奨されていることは知っておいてよいと思います。
リカバリーの3本柱 3:栄養
栄養もこれだけで記事1本つくれるくらい内容が多いです。要点をまとめていきます。
運動後の回復には栄養補給が重要で、筋組織の修復、エネルギー補給、発汗による体液バランスを整えるという大きく3つの目的があります。
筋組織の修復
筋肉の修復と再生に必要なのは、アミノ酸です。
アミノ酸はタンパク質に含まれていますから運動後30分から2時間以内に補給することが重要です。
有名どころでいうと、分岐鎖アミノ酸 (BCAA:ロイシン、イソロイシン、バリン。アミノバイタルとかにはいっている)が筋肉痛や疲労を軽減し、怪我のリスクを低下させることが報告されています8,9)。
ホエイタンパク質(ザバス等ほとんどのプロテインに入っている)は、筋肉の修復を促進する必須アミノ酸と分岐鎖アミノ酸を豊富に含むため、運動後の回復に効果的なサプリメントとして認められています。
エネルギー補給
強度の強い運動の主なエネルギー源は筋肉と肝臓で貯蔵されたグリコーゲン(糖質)です。
そのため、運動後にグリコーゲンを補充することは、筋肉の回復をサポートすること、そしてその後の運動のパフォーマンス維持に不可欠です。
糖質は炭水化物に含まれます。運動後に炭水化物とタンパク質を一緒に摂取すると、インスリン分泌が促進され、筋肉の修復が促進されることがわかっています10)。炭水化物も運動後30分から2時間以内に補給することが重要です。
体液バランスの補正
運動後の回復には、水分と電解質のバランスを維持することも重要です。
発汗によりナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの水分と電解質が失われるため、これらを補給する必要があります。長時間の運動や強度が強い運動では電解質を含むスポーツドリンクが推奨されます11)。
よくある質問 サプリメントを使ったほうがよいか
よくある質問としてサプリメントを利用した補助食品を使用したほうがよいか?です。
代表クラスのトップアスリートであればサプリメントは必要です。クラブチーム等の専属管理栄養士がいると思いますのでその先生の指導をうければよいと思いますが、基本的に運動強度がそこまで強くない一般的な選手であればサプリメントは必要ありません。自然の食品から摂取すればよいこともわかっています12)。
次は運動後のおすすめの補助食事を紹介したいと思います。
院長おすすめの運動後の補助食品:乳製品
私のおすすめは
乳製品(牛乳、ヨーグルト)です。
牛乳には、筋肉の修復と成長に重要な役割を果たす2つの主要なタンパク質、ホエイとカゼインが含まれています。
さきほど紹介したホエイタンパク質は吸収が速いため、運動直後の回復に最適です。
一方、カゼインはアミノ酸の持続的な放出を促進し、長期的な筋肉の修復をサポートします。
さらに、牛乳はカルシウムの豊富な供給源ですし、牛乳に含まれるカリウムやナトリウムなどの電解質は、体液バランスの調整と水分補給をしてくれます。
ヨーグルト(特にギリシャヨーグルト)はカルシウム、マグネシウム、カリウムが豊富で、これらはすべて骨の健康と筋肉の機能をサポートします13)。
ヨーグルトにもし入れるとしたら、抗酸化物質のアントシアニンが豊富で筋肉の回復をサポートしてくれるベリー類がよいです。
乳製品はタンパク質、炭水化物、電解質を含んでおり栄養補給にとても優秀です。
運動後どれくらい摂取すればよいか
タンパク質や炭水化物、水分を運動後どれくらいの量を摂取すればよいかはスポーツの種類(ウェイトリフティング等のパワー系なのか、マラソン等の持久系なのか)や運動強度によって異なるため、この記事だけで説明することは難しいです。
ですが、一般的には運動後タンパク質(0.2–0.4 g/kg)と炭水化物(1g/kg)の補充が国際スポーツ栄養学会から推奨されている量になります14)。
つまり、体重30㎏であればタンパク質6g、炭水化物30gの補充が必要という計算になります。
牛乳(普通牛乳・200 ml)
タンパク質:約 6.8 g 炭水化物(主に乳糖):約 9.6 g
バナナ(中サイズ・100 g)
タンパク質:1.1 g 炭水化物:21.4 gがおおよそ含まれています。
運動後30分-2時間の間に牛乳だけを飲むでもよいと思いますが、追加でバナナを食べることでタンパク質と炭水化物との両方を推奨量補充することができます。
牛乳が苦手な場合は、さきほど紹介したベリー類入りのスムージーやシェイク、飲むヨーグルト等でより効率的にリカバリーができると思います。
ただ、栄養補給した後に自宅で夕食をとると思いますので、摂取のしやすさでいうと運動後の牛乳、飲むヨーグルト、スムージーが手軽でよいと思います。
まとめ
スポーツ後のリカバリーについて説明しました。
親としては、適切な休養と栄養補給を組み合わせることで、怪我を防ぎながら、強く、長く続けられる競技人生を応援したいです。そのために、
「休むことも練習の一部」
という考え方が非常に重要です。
書ききれていない内容が多数あり、もし追加で質問があればコメント欄、もしくは受診時に聞いていただければ幸いです。
個人的には空手(格闘技)の回復に特化した記事を作成したいと思っていますが、来年のアメリカ小児科学会の演題(締め切りが今年の11月3日)の準備にそろそろとりかかろうと思っています。
臨床、研究も含め社会に貢献できるよう少しずつですが1歩ずつ前進していきたいです。
以上になります。
1)Hebestreit H, Mimura K, Bar-Or O. Recovery of muscle power after high-intensity short-term exercise: comparing boys and men. J Appl Physiol (1985). 1993 Jun;74(6):2875-80. doi: 10.1152/jappl.1993.74.6.2875. PMID: 8365990.
2)Dotan R, Falk B, Raz A. Intensity effect of active recovery from glycolytic exercise on decreasing blood lactate concentration in prepubertal children. Med Sci Sports Exerc. 2000 Mar;32(3):564-70. doi: 10.1097/00005768-200003000-00003. PMID: 10730996.
3)Hoang QB, Mortazavi M. Pediatric overuse injuries in sports. Adv Pediatr. 2012;59(1):359-83. doi: 10.1016/j.yapd.2012.04.005. Epub 2012 Jun 8. PMID: 22789586.
4)Paruthi S, Brooks LJ, D’Ambrosio C, Hall WA, Kotagal S, Lloyd RM, Malow BA, Maski K, Nichols C, Quan SF, Rosen CL, Troester MM, Wise MS. Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine on the Recommended Amount of Sleep for Healthy Children: Methodology and Discussion. J Clin Sleep Med. 2016 Nov 15;12(11):1549-1561. doi: 10.5664/jcsm.6288. PMID: 27707447; PMCID: PMC5078711.
5)Sekiguchi Y, Adams WM, Benjamin CL, Curtis RM, Giersch GEW, Casa DJ. Relationships between resting heart rate, heart rate variability and sleep characteristics among female collegiate cross-country athletes. J Sleep Res. 2019 Dec;28(6):e12836. doi: 10.1111/jsr.12836. Epub 2019 Mar 6. PMID: 30843295.
6)Milewski MD, Skaggs DL, Bishop GA, Pace JL, Ibrahim DA, Wren TA, Barzdukas A. Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes. J Pediatr Orthop. 2014 Mar;34(2):129-33. doi: 10.1097/BPO.0000000000000151. PMID: 25028798.
7)Brenner JS, Watson A; COUNCIL ON SPORTS MEDICINE AND FITNESS. Overuse Injuries, Overtraining, and Burnout in Young Athletes. Pediatrics. 2024 Jan 1;153(2):e2023065129. doi: 10.1542/peds.2023-065129. PMID: 38247370.
8)Kaspy MS, Hannaian SJ, Bell ZW, Churchward-Venne TA. The effects of branched-chain amino acids on muscle protein synthesis, muscle protein breakdown and associated molecular signalling responses in humans: an update. Nutr Res Rev. 2024 Dec;37(2):273-286. doi: 10.1017/S0954422423000197. Epub 2023 Sep 8. PMID: 37681443.
9)White JP. Amino Acid Trafficking and Skeletal Muscle Protein Synthesis: A Case of Supply and Demand. Front Cell Dev Biol. 2021 May 31;9:656604. doi: 10.3389/fcell.2021.656604. PMID: 34136478; PMCID: PMC8201612.
10)Kuo, T.-Y.; Barnes, J.; Laurson, K.; Russell, L.T. Meta-Analytic Comparison of the Effects of Consuming Carbohydrate with and without Protein on Postexercise Plasma Insulin and Glucagon Responses in Healthy, Trained Males. Sci. J. Sport Perform. 2023, 2, 256–271.
11)Pérez-Castillo, Í.; Williams, J.; López-Chicharro, J.; Mihic, N.; Rueda, R.; Bouzamondo, H.; Horswill, C. Compositional Aspects of Beverages Designed to Promote Hydration Before, During, and After Exercise: Concepts Revisited. Nutrients 2023, 16, 17.
12)Wang L, Meng Q, Su CH. From Food Supplements to Functional Foods: Emerging Perspectives on Post-Exercise Recovery Nutrition. Nutrients. 2024 Nov 27;16(23):4081. doi: 10.3390/nu16234081. PMID: 39683475; PMCID: PMC11643565.
13)Hadjimbei E, Botsaris G, Chrysostomou S. Beneficial Effects of Yoghurts and Probiotic Fermented Milks and Their Functional Food Potential. Foods. 2022 Sep 3;11(17):2691. doi: 10.3390/foods11172691. PMID: 36076876; PMCID: PMC9455928.
14)Kerksick CM, Arent S, Schoenfeld BJ, Stout JR, Campbell B, Wilborn CD, Taylor L, Kalman D, Smith-Ryan AE, Kreider RB, Willoughby D, Arciero PJ, VanDusseldorp TA, Ormsbee MJ, Wildman R, Greenwood M, Ziegenfuss TN, Aragon AA, Antonio J. International society of sports nutrition position stand: nutrient timing. J Int Soc Sports Nutr. 2017 Aug 29;14:33. doi: 10.1186/s12970-017-0189-4. PMID: 28919842; PMCID: PMC5596471.
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