今回の記事は院長の日常をお伝えするコラム記事です。
2024年9月に新極真会 光が丘道場に入会し、現在週に2回、吉野師範から指導をうけ、稽古を行っております。
我が子2人は私よりも先に別の道場で空手の稽古を行っており、空手を通じて家族で成長させていただいています。今回の私が伝えたいことは
空手は運動習慣の形成や運動能力向上だけでなく、
「心の安定、自信の構築、集中力の向上、学業成績の向上効果がある」
になります。
お子さんの習い事として空手をおこなっている親御さんも、これから習い事で悩まれている親御さんにもためになる記事になればよいなと思っています。
小児科医が作成するブログ記事ですので、小児の身体能力、認知機能、情緒的発達、学業成績、そして行動面への影響など、多岐にわたる空手の魅力を科学的根拠もあわせて説明していきたいと思います。
最後に我が家と空手について記載しておきますので、もしよければ最後まで確認ください。(空手への熱い気持ちをぶつけました!)
注)世界の論文の紹介ではMartial Arts(武道)で研究されており、空手、柔道、テコンドー、合気道を含んでいます。その中でも空手の比率が高い論文を選んで紹介します。
この記事の目次
空手と身体的発達 運動能力を高める根拠
空手は全身を使う有酸素運動と筋トレを組み合わせたような総合的な運動です。
そのため、空手を行うことでバランス、敏捷性、筋力、柔軟性、心肺機能など、運動能力全般に有益であることが明らかになっています1)。
具体的には1年間の空手プログラムを受けた空手群とコントロール群で比較すると全体的な体力の成長率が2倍であり、「フラミンゴ」のポーズ(バランス能力)で最も高い成長率が見られたとの結果でした。(蹴りの動作がバランス感覚を育てそうだなとイメージすることができます)
10週間の空手プログラムを実施した研究2)では、バランス、柔軟性、脚の筋力、スピードなどがコントロール群と比較し著しい向上が認められました。その他、空手が心肺機能、免疫系、筋力、柔軟性、骨密度に影響することが示されており、慢性疾患予防にも効果的とされています3)。
(この論文のすごいところは、長期にわたる空手のトレーニングで総白血球数および免疫グロブリンの変化など、免疫パラメータの有意な変化と関連していることを明らかにしています。空手をやることで疾患予防もできるなんてびっくり!)
認知機能の向上
空手の稽古を行うとわかるのですが、集中力、記憶力、注意力、判断力といった認知機能が求められます。それらの能力が実際に鍛えられた研究を説明していきましょう。
平均年齢9歳の39名の児童を、空手群19人と運動不足群20人に分け、運動能力と認知能力を測定した結果、空手を習う子どもは、空間認識能力や選択的注意力において優れており、学校でも落ち着いて授業に取り組める傾向が見られた4)。
6か月間、週2回の空手での心理機能(攻撃性、自尊心)と認知機能(抑制、柔軟性、処理速度、注意)を評価した研究です。オキシトシンとコルチゾールというホルモンが反応することで、処理速度の改善と攻撃性の減少、コルチゾールの影響で自尊心の向上がみられたことがわかりました5)。
d2 テスト(注意力をみる検査)N-back 課題(認知機能(ワーキングメモリ)をみる検査)を用いて、空手群と自然遊びを多くする群と活動性が低い群の3つで比較した研究です。空手群が注意力、認知機能で点数が高いことが確認されました6)。
武道群(41人)、チームスポーツ(42人)、運動不足(19人)の3つの群で比較した研究7)では、武道経験者は非運動群に比べ、計画力や自己統制などの認知機能が優れており、学校の成績にも好影響が見られました。

この研究はチームスポーツとも比較しており、武道をしている群が認知機能や学力(上の表がまさにその結果です。一番左のマーシャルアーツの点数が高いですね。)も1番結果がよかったということがわかりました。
空手と情緒的安定 心を整える力
空手道場では、礼儀、敬意、我慢、謙虚さといった非認知的能力も育まれます。これが、情緒面での安定に寄与します。
この論文が1番エビデンスレベルの高い論文8)で全てのまとめです。
従来の体育の授業と比較して、体育の授業中に1年間の空手の介入を行ったところ、ヨーロッパ5か国の7~8歳児の学業成績が向上し、問題行動が軽減しました。
いままで記載したような心肺機能、バランス、柔軟性など、身体的健康のさまざまな指標にもメリットが確認されています。この研究では学校における空手導入は、単なる体育活動としてだけでなく、いじめ予防、Social Emotional Learning教育の一環としても大きな可能性を持っており、小学生の体育の授業で空手を導入することを強く支持しています。

この研究のすごいところはヨーロッパ5カ国20校(各校2年生クラス2教室)が参加して多国籍で評価していることです。なかなかこのような研究をデザインするのは難しいのでよく論文化まで完成させた著者の熱量に感心しました。
またイランの研究9)ですが、男子小学校の4年生から6年生、「型」の稽古をした群としていない群で検討したところ、型の稽古をした群の注意力と集中力の有意な改善と、攻撃性、反抗的挑戦性、社会的不適応の有意な減少をもたらすことが示されたというものです。
イランの研究のよいところは、痛みを伴わない「型」だけでも効果があることを示せた点です。武道=暴力で、危ないといったイメージを持たれている親御さんに対してよい情報なのではないかなと思います。
空手についての批判的な意見
今まで空手のよいことばかり記載してきました。ですが、物事は批判的にもみなければなりません。空手をすることで本当に良い事ばかりで、悪いことはないのでしょうか。
武道と心の問題は、かなり討論がされた話題だったようです。
武道をすることで攻撃性などが改善するという論文と、逆に悪化するという論文があり、世界の論文を確認すると最終的な結論はまだついていません。
実際に攻撃性があがったという論文10)が2005年に出版され大論争になった歴史がありました(今回勉強して初めて知りました)。この論文の内容は、
パワースポーツ(ボクシング、レスリング、ウェイトリフティング、武道)への参加と暴力的行動および反社会的行動との関連性を、11歳から13歳の477人の男子を対象に、2年間にわたり調査した研究です。
結果は、パワースポーツへの参加が、スポーツ以外での暴力および反社会的行動の増加という形で悪影響を及ぼすという内容です。
確かにいままで説明してきたことと真逆の結果です。
ある研究者は、武道をする対象者の人間性が重要なのではないかと表現しています。
つまり、2000年よりも前は、やや攻撃性のある人のみが格闘技をする傾向にあったのが、2000年以降は、武道がよいということ、青少年で人気がでたこともあり、攻撃性がない、むしろ社会的弱者も武道に関わることが増えたことが影響しているのではないかと考察しています。
そのため、
・もともと攻撃性の強い人のみが武道をしていたため、攻撃性が増したという結果になってしまった。
・もともと攻撃性がない、社会性弱者が武道をする人が増えたことで、最近の研究では良い影響がでている。
武道をする対象の人間性の変化が結果に影響しているのではないかという考察です。
私が幼少期に空手をしていなかったため、その当時の空手をされていた方の親御さんの雰囲気はわかりません。調べてみると、フルコンタクト空手は昔は喧嘩空手、邪道空手と呼ばれていた歴史があるようです。そういうことなのでしょうか。
空手で悪影響がでたという論文は少数派で、良い影響がみられたという結論が多数派ですので安心いただければと思いますが、これからも武道と小児の発達関連の論文をフォローしていきたいと思っています。
さて、ここからは少し私のことをお話していきたいと思います。
なぜ我が子達が空手をやっているのか
私は小学生の時にいじめられた経験があります。
私のイジられやすい性格や、太っていた体型もあったのかもしれません。
小学生の時は恥ずかしがりやで目をみて挨拶をすることも頑張ってしていた記憶があります。
そんな私の子供ですから、同じことが起きるのではないかと心配になるわけです。
目をみて挨拶をする、意外と出来そうで難しいです。
しつけや物事を教える際、子供に親が一生懸命伝えてもうまく伝わらない場合は、「親以外で、子供が尊敬できる大人」に伝えてもらうということも重要です。
これは発達障害のお子さんの関わりや、思春期のお子さんの関わりでも重要なポイントで、「親以外で、子供が尊敬出来る大人」に指導してもらうのがよいのです。
(もちろん最初は全力で親が伝えることが重要です。最初から人任せという意味ではありません)
思春期の中高生が親の言うことは聞かないが、野球の監督の言うことは聞くというようなエピソードがまさにそれになります。
思春期までにいかに親以外の尊敬出来る大人を見つけることが出来るかが、成長発達においてとても重要だと考えています。
我が家は友人の紹介でたまたま新極真会に入会しました。いじめられないように強くなってほしい、目をみて挨拶が出来るようになってほしいが動機でした。
そんな動機で入会した後の息子の昇級試験の際、新極真会の緑代表の激励の言葉が胸にささりましたので紹介したいと思います。(私の記憶なので少し内容は異なるかもしれません)
新極真会 緑代表の言葉
弱い者いじめをする人に、「そんなことをするな」と言える勇気。それはまず自分自身が強くなければいけません。「強さ」を求めて空手をはじめたけれど、稽古をすれば辛いこともいっぱいあるでしょう。痛い思いもするでしょう。でも頑張って稽古をして「強さ」を手に入れてはじめて「優しさ」を手に入れられます。強さがあってはじめて人に優しく出来ます。
自分が強くなっていじめられっ子を守ってあげられるよう、精一杯頑張ってください。
そして空手を続けられることに感謝すること、親を含めすべての人に感謝することを忘れないでください。
上記のような内容をお話されていました。
ただ強くなるのではなく、人間として成長してほしい。いじめから守ってあげられるような強い人間になってほしいという我々の願いを緑代表は述べられており、新極真会で間違いなかったなと確信しました。
この時代にあまりにも真っすぐな言葉で強い衝撃をうけたことを今でも覚えています。
ただ、やはり稽古は辛く厳しいものです。子ども達が空手を辞めたいという事は何回もありました。
「継続は力なり」
私自身は「継続だけが力なり」と考えており、どうやって続けさせるかを考えた結果、子どもにだけ厳しい稽古を親が強いるのではなく、親も一緒にその辛い稽古を共有し、親子で成長出来るよう、息子から遅れること1年、私も入門することを決意し今に至ります。

新極真会 総本部光が丘道場

仕事後に稽古をする必要があり、サンスカイから近い道場を探したところ、田柄に総本部 光が丘道場を発見しました。私の所属している道場の紹介を少ししておきましょう。
師範は吉野師範です。サイトは下記になります。
吉野師範は体が大きく、目力が強いので、最初見学に行った時は漫画ハンターハンターのレイザー(グリードアイランド編でドッジボールで激闘を繰り広げる人)なんじゃないかと思い正直びびりました笑
ですが、中身はとにかく優しい。(でも怒ったらちゃんと怖い)
吉野師範の良いところは道場生に対し優しいところ、悪いところは道場生に対し優しすぎるところでしょうか。
同じ黒帯の先生に林先生、上原先生がいらっしゃり、どちらの先生も人間として尊敬出来る人生の先輩です。
黒帯の先生達は、子供に対しても温かい見守りがあるので、子供と接する職業の大人が支持的態度、受容的態度で接してくれることは小児科医の私としては嬉しい限りです。
もちろん合う合わないがあると思いますが、いろいろな師範をみて「親以外で、子供が尊敬出来る大人」を見つけていただければと思います。
サンスカイのまわりは空手道場が多い
サンスカイで勤務するようになり習い事で空手をやっているお子さんを多く診察する機会がありました。よく調べてみると

極真会館、新極真会、その他の流派も含め多くの道場があることに気がつきます。
私の道場は黄色の丸でかこった新極真会ですが、サンスカイを中心にピンクの丸でかこった極真会館の道場が多く、どれも強い道場だと聞いています。(拳心会(寸止め空手と聞いています)のお子さんも多いです)
そのため、よく空手の稽古後の受診や、空手やっていますというお子さんの受診が多いです。
空手の稽古をしているお子さんと関わる機会が多いクリニックですから、小児科医として何かしらで貢献できればよいなと考えています。
(いずれスポンサー等で支援出来たらと考えています)
まとめ
空手は、身体的成長はもちろんのこと、精神的・認知的発達、情緒的安定、さらには学業成績にまで好影響を及ぼす多面的な効果があることを説明してきました。
つまり、1言でいうと
「空手最高なのでみんなやろうよ!」
です。この記事をみて空手がいいなと思いましたら
「空手やるなら光が丘道場!」
です。
親子での稽古がよりおすすめです。もしよければおやじクラスで待ってます。

この写真は先日総本部4道場合同で昇級試験をおこなった際の成人クラスです。(インスタグラムより引用)
真ん中の白帯が私です。
写真では人数が多いですが、ほとんど他道場で光が丘道場の成人クラス(おやじクラス)はとても少ないです。
アラフォーになって白帯、1から物を学べることはとても面白く、職業や年齢が違う先輩達と汗をかくことはストレス解消になりとても気持ちがよいです。(成人で空手をすることで幸福度があがるという研究もありました)
どんなにダサくても、一生懸命稽古をしている姿を子供達に見てもらうことも素晴らしいと私は感じています。
一緒に黒帯を目指して頑張りましょう!
以上になります。
1) Stamenković A, Manić M, Roklicer R, Trivić T, Malović P, Drid P. Effects of Participating in Martial Arts in Children: A Systematic Review. Children (Basel). 2022 Aug 11;9(8):1203. doi: 10.3390/children9081203. PMID: 36010093; PMCID: PMC9406432.
2) Arslan Y, Yavaşoğlu B, Beykumül A, Pekel AÖ, Suveren C, Karabulut EO, Ayyıldız Durhan T, Çakır VO, Sarıakçalı N, Küçük H, Ceylan L. The effect of 10 weeks of karate training on the development of motor skills in children who are new to karate. Front Physiol. 2024 Apr 2;15:1347403. doi: 10.3389/fphys.2024.1347403. PMID: 38628441; PMCID: PMC11019307.
3)Piepiora PA. The Health Effects of Karate Training: A Review of 21st Century Research. Healthcare (Basel). 2025 Jan 9;13(2):118. doi: 10.3390/healthcare13020118. PMID: 39857145; PMCID: PMC11764734.
4)Alesi M, Bianco A, Padulo J, Vella FP, Petrucci M, Paoli A, Palma A, Pepi A. Motor and cognitive development: the role of karate. Muscles Ligaments Tendons J. 2014 Jul 14;4(2):114-20. PMID: 25332920; PMCID: PMC4187589.
5)Harwood-Gross A, Lambez B, Feldman R, Zagoory-Sharon O, Rassovsky Y. The Effect of Martial Arts Training on Cognitive and Psychological Functions in At-Risk Youths. Front Pediatr. 2021 Oct 22;9:707047. doi: 10.3389/fped.2021.707047. PMID: 34746050; PMCID: PMC8570107.
6)Li K, Dong G, Gao Q. Martial arts enhances working memory and attention in school-aged children: A functional near-infrared spectroscopy study. J Exp Child Psychol. 2023 Nov;235:105725. doi: 10.1016/j.jecp.2023.105725. Epub 2023 Jun 17. PMID: 37336063.
7)Giordano G, Gómez-López M, Alesi M. Sports, Executive Functions and Academic Performance: A Comparison between Martial Arts, Team Sports, and Sedentary Children. Int J Environ Res Public Health. 2021 Nov 9;18(22):11745. doi: 10.3390/ijerph182211745. PMID: 34831501; PMCID: PMC8622860.
8)Pinto-Escalona T, Gobbi E, Valenzuela PL, Bennett SJ, Aschieri P, Martin-Loeches M, Paoli A, Martinez-de-Quel O. Effects of a school-based karate intervention on academic achievement, psychosocial functioning, and physical fitness: A multi-country cluster randomized controlled trial. J Sport Health Sci. 2024 Jan;13(1):90-98. doi: 10.1016/j.jshs.2021.10.006. Epub 2021 Oct 31. PMID: 34732366; PMCID: PMC10818116.
9)Parsamajd F, Teymori S. Karate Kata training: A promising intervention for behavioral problems in elementary school children. J Exp Child Psychol. 2024 Dec;248:106058. doi: 10.1016/j.jecp.2024.106058. Epub 2024 Sep 4. PMID: 39236554.
10)Endresen IM, Olweus D. Participation in power sports and antisocial involvement in preadolescent and adolescent boys. J Child Psychol Psychiatry. 2005 May;46(5):468-78. doi: 10.1111/j.1469-7610.2005.00414.x. PMID: 15845127.
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