小児における新型コロナワクチンについてのアップデート vol.1

新型コロナワクチンの接種を引き続き推奨すると小児科学会が2023年10月3日に発表されました。この発表をうけてブログのコメント欄に

「1年経って、情報のアップデートはありますか?
日本小児学会でも、生後6ヶ月から17歳のすべての小児に接種を推奨する、とありますが、この根拠となるようなデータを元に、記事を作成して欲しいです。」

と記載がありました。コメントありがとうございます。
小児科学会発表の内容に図などをいれながら説明していきますね。

まず結論から、

今ある情報からご家族毎にワクチンを接種するかを判断する!
数字だけでみればワクチン接種のほうがメリットは多い。

になります。

前も記載しましたが、
ワクチンの接種はそれぞれの親御様の考えがあると思いますので
絶対に接種をしないといけない、
絶対に接種をしてはいけない
ということではありません
運悪く新型コロナウイルス感染症で重症化してしまったり、後遺症がみられてしまえば新型コロナワクチンをしておけばよかったとなりますし、新型コロナウイルスに罹患してもほとんど症状がでなければワクチン接種をしなければよかったとなります。
今ある情報から利益、不利益のバランスを考えてご家族毎に決定するのがよいと思います。

念のため補足ですが、小児科学会の発表にはきちんと根拠となるデータは記載されています。(見やすいかは別として)
添付論文や細かい情報も公式発表の下に記載があります。
1つ1つ根拠となるデータを見るのが大変だと思いますので大事な部分をブログ記事でこれから紹介していきますが、元データからきちんと知りたい場合は下記に小児科学会の発表のPDFを添付しますのでまずこちらから確認ください。納得できると思いますよ。

http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20231003_corona_R5_kangae2.pdf

まずは、小児科学会のコメントの概要

日本小児科学会は国内の小児に対するワクチン接種の意義について再度検討し、以下5項目を理由にワクチン接種を推奨するとしています。

① 流行株の変化によって今後も流行拡大が予想される
② 国内の約半数は未感染者であり今後も感染機会が続く
③ 小児においても重症例・死亡例が発生している
④ 小児へのワクチンは有効である
⑤ 小児のワクチン接種に関する膨大なデータが蓄積され、より信頼性の高い安全性評価が継続的に行われるようになった
国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在すること、感染および重症化を予防する手段としてのワクチン接種は有効であると考えています。
日本小児科学会は、生後6か月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を引き続き推奨します。

とあります。
この小項目を1つずつ説明していきましょう。

① 流行株の変化によって今後も流行拡大が予想される

これは文章の通りなのでそのままでもいいかなと思いますが、結局この内容が全てだと思います。
従来のワクチンや以前に罹患したコロナウイルス感染によって得られた免疫は、現在流行している株に対する効果が不十分であるため、今後の流行拡大が想定される
という内容です。
つまり
新型コロナウイルスに何回感染しても株が変われば自分の持っている抗体も変えなければいけない。
だから、また感染する。
そのため流行が続く。
株がころころ変わるというのは新型コロナウイルスの特徴であるということがこの数年ではっきりとわかってしまいました。残念ながらこの流れは終わりません。

② 国内の約半数は未感染者であり今後も感染機会が続く

ここの記載が少しふわふわしていているので、もしかしらたコメントした方が気になったポイントなのかもしれません。
5都道府県の一般住民(成人)を対象とした抗体保有率調査が2023年2月3日~3月4日にかけて行われています。
下の図に書いてありますが、ワクチンを接種した場合は抗S抗体のみ陽性となります。
新型コロナウイルスに感染した場合、抗N抗体と抗S抗体の両方が陽性となります。
つまり抗N抗体の保有率が自然感染の割合となります。
今回のN抗体保有率は5都道府県で32.1%と報告されました1)

また、2023年5月17日~31日に16〜69歳から収集された献血の残余検体を用いた検討では抗N抗体の保有率は42.8%と報告されています2)
少し自然感染の割合が増えました。そして年齢別のN抗体保有率は下記です。

若年層の抗N抗体の割合が高いことが視覚的にわかりますね。若年層での自然感染の割合が高いことがわかります。だいたい50-60%くらいでしょうか。

令和5年7月22日~8月21日に西日本の診療所で採取された検査用検体の残余血液を用いた検討3)では、全体で抗N抗体の保有率が51.1%でした。
前回の期間よりも自然感染が増えています。
ただ、よく図を見てみると、若年層で約70%ほどでしょうか、抗N抗体陽性で自然感染していることがわかります。

流れとしては、2023年2月3日~3月4日で32.1%、2023年5月17日~31日で42.8%、令和5年7月22日~8月21日で51.1%と全年齢層で自然感染が増えてきており、若年層ではその割合が高いことがわかりました。
厚労省のこの報告の結論は、自然感染が増えいているが、全人口の半分はまだ感染していないことがわかったため今後も感染機会が続くという結論にいたっています。

そしてこの報告では、調査対象が限られており、我が国全体の抗体保有割合と異なる可能性があるため、乳幼児を中心にまだ多くの未感染者がいると考えられる、とコメントされています。

最後の厚労省のコメントに関しては、たしかに日本全体を調べていないのではっきりしたことはわからないかもしれませんが、トレンドとしては若年者の多くが自然感染してきていることは確かであるはずです。

いろいろ書きましたが、結局①にでてきたことに戻ります。
新型コロナウイルスに何回感染しても株が変われば自分の持っている抗体も変えなければいけない。
だから、また感染する。
そのため流行が続く。
となります。
既感染者であっても繰り返し感染すること4,5)は前からわかっています。
実際クリニックで診療していた時もかなりの小児が感染していることは肌感覚としてありましたし2回目の感染の方もかなり多かったです。
今、東京で学級閉鎖がかなり多いと思いますので、若年層で流行を繰り返すというのはこれまでのデータ通りで今後も続くことが予想されます。
ではどの程度重症化に移行するのかが次に知りたい大事なポイントだと思います。
説明していきましょう。

③ 小児においても重症例・死亡例が発生している

日本における小児の新型コロナウイルス感染者の中で、稀ですが急性脳症や心筋炎を発症し死亡してしまうことがわかっています6)

2022年1月1日~2022年9月30日までの新型コロナウイルス関連の20歳未満死亡例は62例でした。
外的な要因を除いた例は50例で、内訳は、中枢神経系の異常19例(38%:急性脳症等)、循環器系の異常9例(18%:急性心筋炎、不整脈等)、呼吸器系の異常4例(8%:細菌性肺炎を含む肺炎等)、その他9例(18%:多臓器不全等)、原因不明9例(18%)でした。(この内容の詳細は最後に記載しますね)

このデータをみると小児においては脳症による死亡が死因の1位であることがわかります。
そこで新型コロナウイルス感染による脳症と診断された児のどれほどが死亡につながるかの論文が次になります7)
2020年1月1日から2022年5月31日までの間に日本小児神経学会の全会員を対象とした新型コロナウイルス感染による脳症と診断された児の全国調査が行われています。

2021年12月31日以前の20歳未満のCOVID-19累計感染者数は241,662人でその際の急性脳症の患者数は3人、(確率0.00124%)
2022年1月1日から5月31日までの20歳未満のCOVID-19累計感染者数は1,979,153人でその際の急性脳症の患者数は28人でした。(確率0.00141%、2期間の罹患率はほぼ同じですね)

この急性脳症と診断された患者31例(発症年齢の中央値は5歳(28日~14歳))の回復の程度を調べてみると、31名中19名は急性脳症になる前の状態まで回復しましたが、4名が死亡し、8名は何らかの神経学的な後遺症を残しました。8名のうち5名は比較的重い後遺症です。
このように急性脳症の中でも患者さんにより回復の程度に大きな差があることがわかり、なぜこのような違いが出てくるのかが今後の研究テーマであると論文はしめくくられています。

数字だけをみれば、
新型コロナウイルスに感染した7-8万人のうち1人が脳症になる可能性があり、脳症と診断されたうちの3人に1人が死亡か後遺症を残す可能性があるということになります。

概要はこの通りです。
ここからは先ほどの2022年1月1日~2022年9月30日までの新型コロナウイルス関連の20歳未満死亡例50例の詳細になります。
長くなるため気になる方だけ確認いただければと思います。

年齢・年代の内訳は、0歳8例(16%)(うち生後6か月未満3例)、1-4歳16例(32%)、5-11歳20例(40%)、12-19歳6例(12%)で、性別は、男性24例(48%)、女性26例(52%)でした。

新型コロナワクチン接種は、死亡時点で接種対象外年齢の者が24例(48%)、接種対象年齢(この調査時点でのワクチン接種年齢は5歳以上でした)の者が26例(52%)であり、接種対象年齢となる5歳以上の26例では、未接種が23例(88%)2回接種が3例(12%)でした。
2回接種を受けた3例は全例12歳以上であり、発症日は、最終接種日から最低3ヶ月を経過していました。

来院時心肺停止の症例は22例(44%)、50例のうち、外来にて死亡が確認された症例は20例(40%)、入院した症例は30例(60%)でした。
発症日は、50例のうち48例について得られ、発症から心肺停止までの日数が、中央値2.0日(四分位範囲:1.0-5.0日、範囲:0-70日)、その内訳は0-2日が25例(52%)、3-6日が14例(29%)、7日以上が9例(19%)であり、発症から死亡までの日数が、中央値3.0日(四分位範囲:1.0-6.5日、範囲:0-74日)、内訳は0-2日が22例(46%)、3-6日が14例(29%)、7日以上が12例(25%)でした。

基礎疾患は、50例のうち、あり21例(42%)、なし29例(58%)であった。
基礎疾患ありの内訳は、中枢神経疾患7例(14%)、先天性心疾患5例(10%)、染色体異常5例(10%)等(重複あり)。

内因性死亡と考えられた50例のうち、死亡に至る経緯が中枢神経系の異常(急性脳症等)であった症例は19例(38%)。年齢の中央値は8.0歳(3.0-10.0歳)で、性別による偏りはなし。
医療機関到着までに認められた症状または所見は、発熱16例(84%)、意識障害16例(84%)、痙攣14例(74%)、悪心嘔吐11例(58%)、頭痛7例(37%)でした。
4例(21%)の症例に来院時心肺停止を認めています。
外来にて死亡が確認された症例は3例(16%)、入院した症例は16例(84%)でした。

内因性死亡と考えられた50例のうち、死亡に至る経緯が循環器系の異常(心筋炎や不整脈等)であった症例は9例(18%)。年齢の中央値は6.0歳(四分位範囲: 2.0-10.0歳)、女性が男性に比べて多い。
医療機関到着までに認められた症状または所見は、発熱7例(78%)、悪心嘔吐4例(44%)、経口摂取不良3例(33%)でした。
6例(67%)の症例に来院時心肺停止を認めています。
外来にて死亡が確認された症例は5例(56%)、入院した症例は4例(44%)でした。

発症から心肺停止及び死亡までの日数は、全症例が1週間未満であり、急激な循環動態の悪化が認められています。

以上になります。次はワクチンの有効性と安全性の説明になりますね。

1) 第6回抗体保有調査(住民調査)速報結果(令和4年度新型コロナウイルス感染症大規模血清疫学調査).厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084515.pdf(参照2023-5-18)
2)第122回(令和5年6月16日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード事務局提出資料 資料2-2 第3回献血時の検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有割合実態調査.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/001109157.pdf(参照2023-8-16)
3)第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料2「新型コロナワクチンの接種について」2023(令和5)年9月8日.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001145304.pdf(参照2023-9-8)
4)Lin DY, Xu Y, Gu Y, et al. Effects of COVID-19 vaccination and previous SARS-CoV-2 infection on omicron infection and severe outcomes in children under 12 years of age in the USA: an observational cohort study. Lancet Infect Dis. 2023 Jun 16:S1473-3099(23)00272-4. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00272-4. Epub ahead of print. PMID: 37336222; PMCID: PMC10275621.
5)Buonsenso D, Cusenza F, Passadore L, Bonanno F, De Guido C, Esposito S. Duration of immunity to SARS-CoV-2 in children after natural infection or vaccination in the omicron and pre-omicron era: A systematic review of clinical and immunological studies. Front Immunol. 2023 Jan 11;13:1024924. doi: 10.3389/fimmu.2022.1024924. PMID: 36713374; PMCID: PMC9874918.
6)新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報).国立感染症研究所実地疫学研究センター 同 感染症疫学センター2022年12月28日 .2023年1月13日.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2559-cfeir/11727-20.html(参照2023-5-10)
7)Sakuma H, Takanashi J, Muramatsu K, et al. Severe pediatric acute encephalopathy syndromes related to SARS-CoV-2. Front Neurosci. 2023 Feb 27;17:1085082.

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。