子供の便秘、どう対処すればいい?保護者のための実践的アドバイス vol.3

前回の続きになります。今回の記事は治療についてです。
まず1個目の記事で便秘症の定義について確認しました。

そして2個目の記事では便秘症の悪化する機序を確認しました。

便が直腸でつまることで腸管が拡張し、便意を感じなくなって悪化していくという内容でした。
さて、治療においてはこの便が直腸でつまっているのか、いないのかで最初のアプローチがかわってきます。

便秘症で悩まれており、すでに2記事をみられている方だけがこの記事を読んでいると思います。
簡潔に説明出来なくて申し訳ないです。
文章ばっかりで長くなりますが、全力で説明しますので、休憩しながらついてきてくださいね。

便がつまっているのか、いないのか

便秘症の治療の目標は
1日1回、困難なく排便し、維持すること
です。
便秘症の治療では、
① 患者教育
② 便がつまっているか、つまっていれば便の塊を除去する
③ 便の再蓄積を内服で予防
④ フォローアップ
の流れで行われます。

①は今までの2記事で説明してきました。
①における補足としては、医師の指導通りに便秘症の治療を行ったご家族の割合は、37-38%1,2)という報告があるくらい低く、きちんと守ることが出来ないということが既にわかっています。
便秘症に即効性のある薬はなく、時間をかけて治療していきましょう!
ということを最初に医師が説明し、ご家族は便秘症がなぜおきるのかを理解した上で、長期間かけて治療を継続する必要があります。

その上で、次は②の便がつまっているのかどうかの判断です。

・腹部の診察で便の塊を触知する
・腹部レントゲンや超音波検査で直腸に便の塊を認める
いきんでいるが、便がでないとの訴えがある
・便失禁がある
少量の硬い便しか出ていない
最後の排便から5日以上たっている
これらのパターンの時は便がつまっていることが多いため最初に便のつまりをとります。
(直接肛門に指をいれて便を出す症例や、全身麻酔を使用して便を出す症例もまれではありますがあります。そのような場合は大きい病院で治療、フォローされます。ただ、今回は一般的な症例にフォーカスしています)

クリニックレベルでは、全症例にレントゲン撮影(放射線の被ばくがあるため)や超音波検査(高額なのでクリニックにそもそもない)をすることはないです。
やはりいきんでいるがでない、少量の硬い便しかでない、5日以上排便がない、
場合は便がつまっていると判断して浣腸をおこなうことが多いと思います。

便のつまりをとる具体的な治療方法

便のつまりをとる方法として、直接肛門に指をいれて便を出す「摘便」があります。
間違いなく便を取り除くことが出来ますが、本人の負担が強く、排便に対してのトラウマを植え付けてしまう可能性がありおすすめ出来ません。

海外においては、便のかたまりのある便秘症に対しての第一選択の内服はポリエチレングリコール(商品名:モビコール®)を3-6日間内服するというものになります。
ですが、日本においては、ポリエチレングリコールは2歳以上でないと処方が出来ないこと、つまりをとる目的としての保険適応がありませんので、便のつまりをとるということだけで使用することは出来ません。

実際、ポリエチレングリコールと浣腸の併用摘便と同等の効果があると報告されています3,4)
そのため実際のクリニックでは、クリニック内で浣腸をおこない便のつまりを一部とり、様々な内服で全ての便のつまりをとる治療を継続するが一般的だと思います。

ここで2つ疑問がでます。
1:便のつまりをとるだけであれば浣腸だけでよいのでは?
2:浣腸なしで、内服だけで便のつまりをとることは出来ないのか?(浣腸は痛がって泣くためかわいそうです。親としては出来ればしたくない。。。)
です。
1番に関しては、今までの記事の図をみられた方はわかると思いますが、硬い便の塊は1つだけとは限りません。
奥に何個も便の塊がつまっているのを図で確認しました。
そのため浣腸に加えて内服を併用することで硬い便を柔らかくして全ての塊を除去する必要があります。(もちろん1回の浣腸だけで元通りに戻るお子さんも多いですけどね。)

そして2番についてです。
内服治療は浣腸と比較し侵襲性が低いためお子さんにとってはよいです。
ただ、便のつまりがとれるのに少なくとも数日はかかります。(内服治療は効果が出るのに1日以上かかるから。)即効性はありません
便秘症の内服治療の1つにラクツロースという薬があります。
ポリエチレングリコールとラクツロースの併用療法で便のつまりがより早く達成出来た(内服2日目に便がでた)という報告5)もあります。
どうしても浣腸が嫌な場合は主治医の先生と相談してみてください。

浣腸について補足します。
浣腸は数分で効果が表れるため即効性がある反面、本人にとっては侵襲性が高いです。
また副作用として腹痛や肛門周囲の不快感があります。
なので、出来るだけ浣腸は少なく、内服で便が再度つまらないようにコントロールすることが大事になります。

綿棒による肛門刺激について

具体的な内服の前に肛門刺激について少し言及します。
乳幼児期に関しては綿棒などで肛門刺激をすることで肛門周囲の筋肉をゆるめるお手伝いをして排便を促します。

ただ、綿棒刺激による排便を促す行為で便秘症が改善するという明確なエビデンスは実はありません。(予防効果はあると思います)
ですが、乳幼児に対しては慣習的にまず綿棒刺激をするという流れがあります。
いきなり乳幼児に薬を内服させること自体が難しい、親御さんのいきなり内服することへの偏見や先入観があること、また肛門刺激は出産した産婦人科で指導をうけられることから導入への敷居が低いことがあると思います。

なので、乳幼児期の便秘症に関してはまず綿棒による肛門刺激をしてみましょうと指導があると思います。
それでも改善しなければこれから紹介する内服をトライしていきましょう。

小児の便秘症で使用される薬について

さきほどポリエチレングリコール、ラクツロースといった薬が出てきました。
③番の便の再蓄積を予防するための具体的な薬の説明をします。
ここでは実際に便秘症で使用する薬の一覧をまず提示します。

薬の名称
(一般名)
商品名使用可能年齢注意点
<浸透圧性下剤>   
ポリエチレングリコールモビコール2歳以上(世界的には年齢問わず)日本では2歳以上でないと使用できない
マルツエキス(糖類)マルツエキス年齢問わず糖類は甘くて内服しやすいがやや効果が安定しない。
ラクツロース(糖類)モニラック年齢問わず糖類は甘くて内服しやすいがやや効果が安定しない。
酸化マグネシウム(塩類)酸化マグネシウム添付文書に記載なし。(慣習的に乳児期から内服)誤って大量内服した場合は高マグネシウム血症になる。
水酸化マグネシウム(塩類)ミルマグ3歳以上塩類は少し飲みにくいが効果は安定的。3歳以上で使用可能。
<刺激性下剤>   
センノシドプルゼニド記載なし。海外は2歳以上原則、刺激性下剤は浸透圧性下剤で効果がないときに使用。
ビサコジルテレミンソフト乳幼児から使用可能。座薬。効果がでるまで15-30分かかる。
ピコスルファートナトリウムラキソベロン6か月未満でも使用可能 原則、刺激性下剤は浸透圧性下剤で効果がないときに使用。
炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム新レシカルボン添付文書では12歳以上。座薬。効果がでるまで15-30分かかる。

現在便秘症で内服治療をされている方のお薬手帳を確認すると、どれかが当てはまっていると思います。だいたいこれらの薬はそれぞれ併用可能です。

表に浸透圧性下剤刺激性下剤という項目がでてきました。
まず浸透圧性下剤がどういうものかを説明していきましょう。

浸透圧性下剤とは

浸透圧性下剤の効能は一言でいうと「便に水分を届ける」です。
浸透圧性下剤は小腸でほとんど吸収されず、大腸まで水分を保持したたま到達することが出来るため、便に水をわたし柔らかくするという機序です。
そのため、便の硬さ、性状のみを内服でコントロールするため「くせになりにくい」ということになるのです。

ただし、いずれの浸透圧性下剤でも効果発現には数日かかることが注意点です。
そして便へ水分を保持したたま到達することではじめて便が柔らかくなりますので、効果を上げるには内服と一緒に十分な水分を摂取することが重要です。
内服を開始して下痢になったり腹痛が生じた場合は適宜減量を指示されると思います。そこはかかりつけの先生の指示にしたがってくださいね。

海外のガイドラインではポリエチレングリコールが第一選択です。ラクツロース6,7)、水酸化マグネシウム8)よりも効果が高いことが証明されています。
そして海外ではポリエチレングリコールの内服の年齢制限がありません。
全年齢で内服可能です。
そのため便秘症となれば治療は決まっていますから迷う必要がありません。

日本においてはポリエチレングリコールの保険適応が2歳以上になりますので、2歳になるまでは違う薬で代用する必要があります。(早く日本でも2歳以下で適応が通るといいですね)

2歳未満に関しては、マルツエキス(糖類)、ラクツロース(糖類)、酸化マグネシウム(塩類)しか選択肢がありません。
糖類の下剤は甘くておいしいのですが、少し効果が安定しません。(主な副作用は腹部膨満のみ)
そのため内服はしにくいですが、酸化マグネシウムを私はよく使用します。
そして2歳以上になればポリエチレングリコール(モビコール®)に変更します。
酸化マグネシウムの副作用は長期使用で腎臓疾患のある児のみ、尿でマグネシウムが排泄できないことで、高マグネシウム血症を呈します。
腎臓疾患がなければ、大量内服さえしなければ安全な薬です。

刺激性下剤とは

刺激性下剤は腸の運動性を高めるとともに、水分の吸収抑制をおこない便に水分の保持を促します。

刺激性下剤は、浸透圧性下剤で効果がない場合に使用を検討します
刺激性下剤は便がつまってしまった場合の救済的な治療であり短期投与が原則となっています

刺激性下剤のみの効果についてはエビデンスの高い論文はなく、基本的には浸透圧性下剤の補助として考えていただくとよいと思います。

実臨床においては、自宅でグリセリン浣腸がうまく出来ない場合、テレミンソフト座薬を使用して排便をうながし、便がつまらないようにするという使用方法はあると思います。

重症便秘症の方で刺激性下剤の継続的使用で下剤の効果が減弱する、いわゆる「くせになってしまう」ということがあります。
ただし重症便秘症の方のみになりますので、一般的には「くせになること」をそこまで心配する必要はありません。
ですが海外のガイドライン9)にならい浸透圧性下剤で効果が得られない時の追加治療としての位置づけがよいと思います

次回はその他の内服治療や食事療法、トイレトレーニングについて言及したいと思います。

1) Koppen IJN, van Wassenaer EA, Barendsen RW, Brand PL, Benninga MA. Adherence to Polyethylene Glycol Treatment in Children with Functional Constipation Is Associated with Parental Illness Perceptions, Satisfaction with Treatment, and Perceived Treatment Convenience. J Pediatr. 2018 Aug;199:132-139.e1. doi: 10.1016/j.jpeds.2018.03.066. Epub 2018 May 10. PMID: 29754864.
2) Steiner SA, Torres MR, Penna FJ, Gazzinelli BF, Corradi CG, Costa AS, Ribeiro IG, de Andrade EG, do Carmo Barros de Melo M. Chronic functional constipation in children: adherence and factors associated with drug treatment. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014 May;58(5):598-602. doi: 10.1097/MPG.0000000000000255. PMID: 24345842.
3) Miller MK, Dowd MD, Friesen CA, Walsh-Kelly CM. A randomized trial of enema versus polyethylene glycol 3350 for fecal disimpaction in children presenting to an emergency department. Pediatr Emerg Care. 2012 Feb;28(2):115-9. doi: 10.1097/PEC.0b013e3182442c0a. PMID: 22270500.
4) Bekkali NL, van den Berg MM, Dijkgraaf MG, van Wijk MP, Bongers ME, Liem O, Benninga MA. Rectal fecal impaction treatment in childhood constipation: enemas versus high doses oral PEG. Pediatrics. 2009 Dec;124(6):e1108-15. doi: 10.1542/peds.2009-0022. PMID: 19948614.
5) Shatnawi MS, Alrwalah MM, Ghanma AM, Alqura’an ML, Zreiqat EN, Alzu’bi MM. Lactulose versus polyethylene glycol for disimpaction therapy in constipated children, a randomized controlled study. Sudan J Paediatr. 2019;19(1):31-36. doi: 10.24911/SJP.106-1546805996. PMID: 31384086; PMCID: PMC6589805.
6) Gordon M, MacDonald JK, Parker CE, Akobeng AK, Thomas AG. Osmotic and stimulant laxatives for the management of childhood constipation. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Aug 17;2016(8):CD009118. doi: 10.1002/14651858.CD009118.pub3. PMID: 27531591; PMCID: PMC6513425.
7) Jarzebicka D, Sieczkowska-Golub J, Kierkus J, Czubkowski P, Kowalczuk-Kryston M, Pelc M, Lebensztejn D, Korczowski B, Socha P, Oracz G. PEG 3350 Versus Lactulose for Treatment of Functional Constipation in Children: Randomized Study. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2019 Mar;68(3):318-324. doi: 10.1097/MPG.0000000000002192. PMID: 30383579.
8) Loening-Baucke V, Pashankar DS. A randomized, prospective, comparison study of polyethylene glycol 3350 without electrolytes and milk of magnesia for children with constipation and fecal incontinence. Pediatrics. 2006 Aug;118(2):528-35. doi: 10.1542/peds.2006-0220. PMID: 16882804.
9) Tabbers MM, DiLorenzo C, Berger MY, Faure C, Langendam MW, Nurko S, Staiano A, Vandenplas Y, Benninga MA; European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition; North American Society for Pediatric Gastroenterology. Evaluation and treatment of functional constipation in infants and children: evidence-based recommendations from ESPGHAN and NASPGHAN. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014 Feb;58(2):258-74. doi: 10.1097/MPG.0000000000000266. PMID: 24345831.

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。