言語発達についてvol.4 バイリンガル育児について知っていただきたいこと

私は中学1年生で初めて英語の授業をうけました。
現代の義務教育は、2020年より小学3・4年生から「外国語活動」として学習が始まり、5・6年生からは「外国語」という「教科」になっており、私の学生時代より早く英語に触れるカリキュラムに変わってきています。
そのため、より早い段階で英語を学ばせたいと考えている親御さんは多く、自宅で英語の教材を使用してみたり、保育園や幼稚園ではなくインターナショナルスクールに通わせる、幼稚園のあとに英語学習スクールに通うというお子さんも増えています。
また、新型コロナウイルス感染症発生から2年以上が経過し、海外転勤される方も増えてきました。そのため、幼少期から海外での生活を経験するお子さんも増えています。
母国語である日本語以外の2言語以上の言語獲得の際に知っておいてほしいことをまとめます。このテーマで伝えたいことは

バイリンガルが原因で、言語発達が遅れるということはない。

になります。説明していきましょう。

「バイリンガルだと言語発達が遅れる」という間違った指導について

以前まで都市伝説のように乳児健診で言われていたことの1つに、
「2言語以上使うと子供の言語発達は遅れます。バイリンガルの子の言語の遅れは少し様子をみましょう」です。
私が小児科になった時も乳児健診を勉強する時や、実際の健診の指導を受けた時もこの言葉がありました。
しかし、このバイリンガルだと言語が遅れるは間違いです。
バイリンガルにおける言語獲得については2000年代にかなり研究1,2,3)がされ以下のことがすでに提言されています。
・獲得言語が2言語以上でも、言語が遅れたり発達混乱を起こしたりするということは健常児、発達障害児共にない。
・幼児には生まれ持って2言語以上を習得する能力が備わっている
・幼児が各言語に接する年齢、質、量(つまり環境)によって習得するスピードや内容、持続が変化する。

ということです。
上記内容は一般的な言語聴覚士のサイトでも確認出来ます。もし時間があれば確認ください。
下記のサイトはオーストラリアの言語聴覚士のサイトです。(オーストラリアは移民が多いので、バイリンガル、トリリリンガル、マルチリンガルの研究が盛んです)

https://www.speechpathologyaustralia.org.au/SPAweb/Resources_for_the_Public/Fact_Sheets/SPAweb/Resources_for_the_Public/Fact_Sheets/Fact_Sheets.aspx?hkey=e0ad33fb-f640-45b1-8a06-11ed2b73f293

サイト内に各種項目のPDFがあるのでより詳しく知りたい方はぜひのぞいてみてください。

モノリンガル(単一言語)とバイリンガルの語彙量の違いは?

モノリンガルは1つの言語のみをインプットしているため、バイリンガルのお子さんより1つの言語に対しての語彙量は多く、上手に話せるだろうというのはなんとなく予想出来ます。

実際幼児期のバイリンガルの子供は、語彙と文法の発達において同年齢のモノリンガルの子供より遅れる傾向があるのは確かです。
ですが、9-10歳までに完全に言語が追いつくこと1)もわかっています。
1つ論文4)を紹介します。
この論文は南フロリダで生活する英語だけのモノリンガル(生後22か月から30か月の56人)とスペイン語と英語のバイリンガル(同年齢の47人)の子供を比較した研究です。

Hoff E, Core C, Place S, Rumiche R, Señor M, Parra M. Dual language exposure and early bilingual development. J Child Lang. 2012 Jan;39(1):1-27. doi: 10.1017/S0305000910000759. Epub 2011 Mar 22. PMID: 21418730; PMCID: PMC4323282.

この図は横軸が年齢、1歳10か月、2歳1か月、2歳6か月を示しています。
縦軸は語彙量になります。
モノリンガルの児の英語の語彙量に比べて、バイリンガルの児の語彙量が少ないことがわかります。

Hoff E, Core C, Place S, Rumiche R, Señor M, Parra M. Dual language exposure and early bilingual development. J Child Lang. 2012 Jan;39(1):1-27. doi: 10.1017/S0305000910000759. Epub 2011 Mar 22. PMID: 21418730; PMCID: PMC4323282.

ですが、英語とスペイン語の語彙量をあわせると、モノリンガルの語彙量とバイリンガルの語彙量に差はありません。

Hoff E, Core C, Place S, Rumiche R, Señor M, Parra M. Dual language exposure and early bilingual development. J Child Lang. 2012 Jan;39(1):1-27. doi: 10.1017/S0305000910000759. Epub 2011 Mar 22. PMID: 21418730; PMCID: PMC4323282.

この論文では文法の発達についても言及しており、2つの尺度で評価しています。
やはりモノリンガルのほうが文法についてもバイリンガルと比較するとこの年齢では優れていることわかります。
この論文はおもしろいこともしていて、バイリンガルの中でも家で英語が多いグループ、英語とスペイン語が均等なグループ、スペイン語が多いグループの3つにわけてさらに評価しており、英語が多いグループがやはり英語のモノリンガルの語彙量、文法発達に近いことが結果として出されています。
言語を話す環境によって語彙量や文法発達の差がでることがデータで見えるようになっています。
この論文の結果を踏まえてもう一度振り返りたいのは、
「1歳半健診で単語が出ないのはバイリンガルが原因だから」ということではありません。
どちらかの言語は語彙量としては必ずインプットされているはずです

子供が 2 つの言語を処理し、2 つの言語を学習する能力を持っていることは研究で証明されています。
しかし、2 つの言語を習得することは子供であっても 1 つの言語を習得するよりも時間がかかるという事実がわかりました。

インプットの比率が少ないと第2言語を話すのをやめる?

おもしろいトピックの1つにインプットの比率の問題があります。
言語のインプットの比率が20%未満だと子供は言語を取得するのをやめるという仮説です。
あくまで仮説で決定的なコンセンサスとはなっていませんが論文1,5)がでています。

先ほどの論文では2歳時点で英語、スペイン語のバイリンガルの児をとりあげました。
そして3つのグループにわけて単語や文法を評価していました。
2歳時点では、インプット比率が20%程度の言語でも英語、スペイン語を話しています。
ですが、成長と共に言語のスキルギャップは維持できず、言語スキルの低い方の言語の使用をやめる可能性があると報じています。
この事実はバイリンガル育児や、海外転勤後にその言語を維持させたいと考えている親御さんは知っておきたいトピックです。
つまり海外転勤して英語を話していた子供が日本に帰国し、英語での会話が生活の20%以下になってしまった場合、日本では英語を全く話さなくなるということです。
同じくインターナショナルスクールや放課後の英語教室に通わせていたとしても、生活のうちの英語が20%以下であれば英語を話すことをやめるということです。
逆に、インプットの母国語の比率が60-80%がである場合、モノリンガルと同程度の言語発達となるというデータ6,7)もあります。
そのため、両親が日本人でバイリンガル育児を行う場合は試行錯誤を繰り返しながらインプット環境の比率を調整する必要があります。(とても難しそう。。。)

インプット環境での言語獲得の違いについて

これは、前回の言語発達の遅れの記事でも書いたことと少し重なりますが追記します。
バイリンガルの言語発達においては、先ほどのインプット比率のバランスに加えて、第2言語を話す人の数が多いほど言語発達をサポートすることが示されています5)
そのため、日本で英語を学ぶ場合は、英語ネイティブの方、ネイティブでなくとも英語を話す方とたくさん関わることがとても重要になってきます。
そして、語彙を増やすという1点においては生後30か月でのバイリンガルの子供でテレビ視聴が有用であるという論文8)もあります。
語彙が増えることは、2つの言語で同時翻訳出来る単語の数が増えることを意味します。
そのため、2言語の関係を学ぶことに繋がるというのです。
モノリンガルでテレビはダメなのにバイリンガルではよいという矛盾がおきてきます。
もちろんテレビの視聴だけでは十分でないと補足はされていますが、語彙量を増やすためのツールとして使用することも検討する必要があります。(これも難しい。。。)

コードミキシング(コードスイッチング)について

バイリンガルの子供で、1つの文章に2言語が混ざることが心配であると訴える親御さんの意見があります。
「トゥギャザーしようぜ」のルー大柴さんのギャク(古い!)のような、2言語が混ざることをコードミキシング(コードスイッチング)と表現します。
例えば今日なにしたの?と日本語で聞いた時
「friend(友達)とpark(公園)に行って、砂場で遊んだ」みたいな感じです。
この英語と日本語が混ざり合うことは言語の使い方に混乱を起こしているわけではありません。むしろ2つの言語システムを習得した証拠であり、その2つのシステムの情報共有の結果コードミキシングがおこることがわかっています。
そのためコードミキシングが起こるのは全くの正常です。
子供にはきちんとした文章の英語で話してほしいと思ってしまいますが、その段階になるのは成長し、文法を理解した後の話になります。全く焦る必要はありません。

第1言語を第2言語が追い抜く時期とは?

ご両親が日本と外国籍の方の場合、生まれた時から3歳までの間に母国語と第2言語の両方が同程度存在する環境で育つ子をSimultaneous(同時)バイリンガルといいます。
一方、母国語を先に取得し3歳以降に第2言語を取得する場合Sequential(逐次)バイリンガルと分類します。海外転勤やインターナショナルスクールがここに当てはまりますね。
この逐次バイリンガルの場合、家庭では母国語で生活していますが、学校の授業や友達との会話が第2言語であり、その時間が長い場合いずれ母国語を追い抜きます。
その時期は研究9,10,11)がされており、

・音声、音韻:最低2年
・文法:3-5年
・語彙:3-6年

といわれています。つまり、海外に転勤になった際その現地での言語を正しく使うようになるためには最低3-6年はかかるということがわかります。
もし海外転勤が2年である場合は個人差はあるものの、発音はよくなるが、言語獲得までは難しいというわけです。
そして言語を話すまでに4つの段階を踏むといわれています。
1:Home Language 誰でも母国語で話す。
2:Non-verbal 第2言語を理解するために話さずに、静かに聞く。
3:Formulaic Language 第2言語を型にはめて発話する。
4:Productive Language 第2言語を豊富に話す。
そのため、海外転勤でお子さんが新しい環境に行った場合は、第2言語を全く話さないという期間が存在する可能性があることを予め認識しておく必要があります。

まとめ

言語発達に関連して第二言語の取得、バイリンガルについても触れてみました。
日本は島国であり、経済的に豊かであるためモノリンガルでも生きていけます。
ですが世界ではモノリンガルのほうが圧倒的に少ないという事実があります。
コロナが落ち着きグローバル化した世界が戻れば、今後生きていく上で英語が必要になる可能性は高まります。
そして直近の課題として、小学3年生から英語教育が始まりますから私のように英語アレルギーがある親御さんもやはり1度は考えないといけないテーマだと思います。
「子供に英語を話してほしい場合は、まず自分が勉強しなくてはいけない」
自分に毎日言い聞かせてます。英語を勉強されている親御さんがいましたら、共に頑張りましょう!
私が英語育児でとても刺激を受けた本を紹介します。実際に家で英語育児をする場合すごく参考になると思います。

この本は題名通り、小6で英検1級に合格した育児方法を書いてあるものですが、作者のタエさんの行動力が凄すぎて脱帽です。
小6で英検1級もすごいですが、5歳で英検3級に合格している事実に衝撃が走りました。
そしてお子さんの日本語のレベルももちろん維持しているようです。
この本がよいと思う点は、子供に英語学習を頑張らせない、親が少し頑張るというスタンスです。(少し頑張る、我慢するとこの本に記載がありますが、印象はしっかり目で頑張るです笑)
そして、言語発達の1番最初の記事で私も書きましたが、英語育児以前に、親子の関係が大事であること、日本語でいっぱい話しかけることが大切で、人として成長するための根っこの部分を育むことがとても大事であると本の序章部分で書かれています。
この考えも1つ目の記事で記載した内容と同じであり、とても共感出来ます。
お金をかけずに出来る工夫や方法、考え方、英語力のキープ方法などいろいろ書いてありますので、気になる方は読んでみてください。私も自宅でやっていることが結構あります。

言語発達に関して4記事作成しました。伝えたい内容は概ね書けたかなと思います。
だた、詳細な内容を知りたい場合はブログ内で質問をしていただくか、やはり本を読んでいただく必要があります。私が育児をする上で役に立った本も今後紹介できたらよいなと思っています。

1) Hoff E, Core C. Input and language development in bilingually developing children. Semin Speech Lang. 2013 Nov;34(4):215-26. doi: 10.1055/s-0033-1353448. Epub 2013 Dec 2. PMID: 24297614; PMCID: PMC4457512.
3) chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.cal.org/wp-content/uploads/2022/05/RaisingBilingualChildrenEnglishSpanish.pdf
4) Hoff E, Core C, Place S, Rumiche R, Señor M, Parra M. Dual language exposure and early bilingual development. J Child Lang. 2012 Jan;39(1):1-27. doi: 10.1017/S0305000910000759. Epub 2011 Mar 22. PMID: 21418730; PMCID: PMC4323282.
5) Place S, Hoff E. Properties of dual language exposure that influence 2-year-olds’ bilingual proficiency. Child Dev. 2011 Nov-Dec;82(6):1834-49. doi: 10.1111/j.1467-8624.2011.01660.x. Epub 2011 Oct 17. PMID: 22004372; PMCID: PMC4144198.
6) Pearson BZ, Fernández SC, Lewedeg V, Oller DK. The relation of input factors to lexical learning by bilingual infants. Appl Psycholinguist. 1997;18:41–58.
7) Jia G, Aaronson D, Wu Y. Long-term language attainment of bilingual immigrants: predictive variables and language group differences. Appl Psycholinguist. 2002;23:599–621.
8) Core C, Hoff E, Rumiche R, Señor M. Total and conceptual vocabulary in Spanish-English bilinguals from 22 to 30 months: implications for assessment. J Speech Lang Hear Res. 2013 Oct;56(5):1637-49. doi: 10.1044/1092-4388(2013/11-0044). Epub 2013 Sep 10. PMID: 24023382; PMCID: PMC4337205.
9) Jia G, Fuse A. Acquisition of english grammatical morphology by native mandarin-speaking children and adolescents: age-related differences. J Speech Lang Hear Res. 2007 Oct;50(5):1280-99. doi: 10.1044/1092-4388(2007/090). PMID: 17905912.
10) Paradis J, Crago M. Tense and temporality: a comparison between children learning a second language and children with SLI. J Speech Lang Hear Res. 2000 Aug;43(4):834-47. doi: 10.1044/jslhr.4304.834. PMID: 11386472.
11) Oller DK, Pearson BZ, Cobo-Lewis AB. Profile effects in early bilingual language and literacy. Appl Psycholinguist. 2007 Apr 1;28(2):191-230. doi: 10.1017/S0142716407070117. Epub 2007 Mar 1. PMID: 22639477; PMCID: PMC3358777.

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