子供の便秘、どう対処すればいい?保護者のための実践的アドバイス vol.2

前回の続きになります。
便が出る仕組みから説明していきましょう。

前回の記事を確認されていない方はこちらから確認ください。

そしてこの記事の最後の方に

便秘症の児の便と、おしりの上にくぼみがある児の写真があります

お食事中であったり、便の写真を見たくない、体についての写真は見たくないという方はくれぐれもご注意ください。
便秘症については説明しなければいけないことが多すぎて、端的にまとめられそうにありません。最初に謝っておきます。ごめんなさい。文章多めです。

便が出る仕組み

食べ物を食べると、主にに小腸で消化吸収されます。そして下の図1)を見ていただきたいのですが、
①小腸から大腸に移行されたときは液体状の便です。大腸のおもな機能の一つは便の水分の吸収です
そのため、大腸から肛門に移動しながら便のの水分は吸収されて形のある便となっていきます。
② 便が直腸(大腸の最後の方)に到達し、直腸の壁が伸びた刺激が神経を経て大脳に伝わり排便したいという便意を生じます
③ 排便する時は、肛門、骨盤を含めた周囲の筋肉(骨盤底筋群と言われます)をゆるめお腹に力をいれる「いきみ」をして排便をします。
(このお腹に力をいれながら肛門周囲の筋肉をゆるめるというのが相反することなので乳幼児では難しい!)

つまり排便という行為は、骨盤、肛門周囲の筋肉の調整、腸の神経の調整、そして大脳を介した複合したプロセスだということがわかります。
この複雑なプロセスは、ほぼ 4 歳までにコントロールすることが可能になるといわれています。

この正常なプロセスのどこかに正常に働かない原因があると便秘症になるということです。
ただ便をするということなのですが、意外と複雑なプロセスがあるということを図を介してお伝えしたかったのです。
次はその原因について説明していきましょう。

便秘症の原因

便秘の原因はさまざまで、便を我慢する行動、肛門や直腸の機能不全、食事、身体活動、遺伝的素因、心理的問題など複合的であり多因子であるといわれています。

まず乳幼児期の便秘症の原因とについて説明していきます。
先ほど骨盤周囲、肛門周囲の筋肉をゆるめ、「いきみ」して排便すると説明しました。
まだ排便をするための協調運動が上手ではありません
そのためうまく排便出来ないことで便が直腸内に貯留してしまうことがあります。

そして年齢があがっていくと原因としては、
・離乳食開始時期など食事内容の変化
・牛乳アレルギー(アレルギーが原因で便秘症や下痢症をおこす)
・排便時の嫌な経験
・間違った時期、方法のトイレトレーニング

・入園や小学校入学、引っ越しなど生活環境の変化時
といわれています。

排便時の嫌な経験(硬い便による痛みを伴う排便、頻繁なグリセリン浣腸の使用など)、間違った時期、方法のトイレトレーニングに関しては注意が必要で、排便に関する恐怖となって、意識的、無意識的に便を我慢する行動を引き起こしてしまいます。
(4歳以降で便秘症となった場合は前回の記事で紹介した我慢行動へとつながっていくわけです。)

そうなると便は長時間大腸にとどまることになり、さらに便が硬く太くなってしまい排出することが非常に困難になります。
ではどのようにして便秘症が次第に悪化していくかの説明をしていきましょう。

便秘症の悪化について

便秘症の悪化の流れはガイドラインの図2)がわかりやすいので引用します。

先ほどまでの説明はこの図の内側の循環でした。
ですが、さらに進行すると図の内側の循環から外側の循環へと移行していきます。
つまり大きな便が直腸内に滞留すると、下の図1)のBになりますが、腸管壁が伸びて巨大直腸に進展し、慢性的に腸管の壁が伸びている状態となります3)
もともとは直腸の壁が伸びた刺激が神経を経て大脳に伝わり排便したいという便意を生じると説明しました。
腸管壁が伸びている状態が当たり前になってしまうと、便意が消失してしまいます4)
さらに便秘が長期にわたり直腸内に巨大な便の塊が形成されると下の図C、液体の便が硬い便の横を通過して肛門から漏れ出て、下着に便の汚れを引き起こす可能性があります。

この状態が前回の記事で紹介した便失禁の状態です。
液体状の便が漏れるようになり下着汚染がみられるのですが、下痢として治療されている場合があります。ですが実は便秘症であるというケースもあります。

子育てをすると誰しもが経験しますが、便秘がないお子さんもお尻がうまくふけていなくて下着が汚染します。もちろんこれはカウントしません。
(余談ですが、このうんちのついた下着、いくら石鹸でこすっても落ちません。なにか洗濯でよい方法があるのでしょうか。。。)

便秘症の児において
我慢行動(37~91%)
触知可能な便の塊がある(33~68%)
下着の便汚れ(33~77%)
とかなり幅はありますが実際に報告5-8)されていますので便秘症で悩まれている方はぜひ我慢行動や下着の汚れに関しては注意して観察してみてください。

今まで説明してきた便秘症の原因を機能的原因といい、もともとの素因として消化器疾患等がなくて便秘症が生じた原因のことを意味します。
頻度としては約90%が機能的原因といわれています4)
しかし残りの10%は消化器疾患等を含む、原因となる基礎疾患があって便秘症となるパターンがあります。
次は基礎疾患を疑う兆候や症状について説明していきましょう。

便秘症をきたす基礎疾患の症状について

前回の記事の最初の質問の中に
「ヒルシュスプルング病の可能性はあるのでしょうか」
という内容がありました。
まさにこのヒルシュスプルング病は便秘症をきたす基礎疾患の1つです。
基礎疾患に関しては、教科書を開けば40疾患以上ありますので全てを説明する必要はありません。
小児科医はそれらの疾患を考えながら否定していくのですが、親御さんが知っておくべき大事な点はその症状です
これらの症状がなければいきなり基礎疾患を疑わず、やはり頻度の高い機能的原因を考えます。ではその基礎疾患を疑う具体的な症状9)について説明していきましょう。

新生児期における基礎疾患の症状について

・胎便排泄遅延(生後24時間以内に排便がない)の既往がある。
・新生児期から始まる難治的な便秘のエピソードがある。

新生児期からの排便関連の異常はなにか消化器疾患を合併している可能性を考えます。
ですが、これについては出産した産婦人科の先生や看護師さんが必ず気がつくはずです。
なので特に問題なく退院出来たのであれば親御さんが心配する必要はありません。

ただし、早産児の場合は腸管の運動機能が未熟なためこれらの症状がみられることがあります。ですが早産児のお子さんはNICUで出生後そのまま入院しますのでこれらの疾患がないか必ず小児科医がみているはずです。安心ください。

乳幼児期における基礎疾患の症状について

おしりの上(仙骨といいます)のくぼみがある
・肛門位置異常や肛門奇形がある。

これは出生した産婦人科の先生もみてくださるとは思いますが、乳児健診の小児科でも必ず確認するポイントです。
重度な便秘症があり仙骨のくぼみが強い場合、肛門奇形がある場合は小児外科や脳神経外科の受診が必要です。
なので健診で指摘されなければ問題ありません。
念のため仙骨のくぼみの写真1)を提示します。

肛門の写真ではありません!おしりの割れ目の上の部分です。

この写真をみてわかるとおり、指で押し広げているにも関わらず、それでもかなりへこみが確認出来ます。
一定数このへこみを指摘される児は乳児健診でもいますが、難治性の便秘症に加えてこのへこみがある場合は基礎疾患が原因の可能性があります。
また漫然と浣腸をして経過をしている児の中に肛門奇形のお子さんも一定数存在します。

このような神経疾患や出生時の奇形は稀ですが存在しますので、必ず乳児健診でおしりの上の割れ目や肛門奇形の有無を小児科医は確認します。

・成長障害(下肢の筋力や緊張、反射の低下がある、発達に問題がある)がある。
・体重減少、体重増加不良がある。

この項目も乳児健診で小児科医が確認しますので指摘されなければ問題ありません。

・繰り返す嘔吐(特に緑色の嘔吐(胆汁性嘔吐といいます))がある。
・肛門が切れていないのに血便がある。
・慢性的に下痢がある。
・腹部が異常に膨満している。

消化器症状を伴う場合は基礎疾患を考えるエピソードとなります。
便秘症で嘔吐をすることはありますが、緑色の嘔吐でありません。
このような場合は消化管が狭窄していたり閉塞したりしている場合があります。
また食物アレルギーによる影響も考えます。

乳児期以降における基礎疾患の症状は主に甲状腺疾患を疑う所見があるか、内服薬の影響等がないかを考えます。ただこれは主に中学生以上を対象としているので軽めの記載で終わりにしたいと思います。

ちなみに便秘症の方の便の典型例を下記に添付します1)
便の画像なので食事をしながら閲覧されている方はご注意ください。

表面に血液が付着しており、肛門が切れていることを示唆しています。また形も便の塊として存在していることがわかります。
これが便秘症の児の便です。
このような形の便をやわらかいバナナうんちに治療で変えいていくというのが目標になります。

次回は治療について説明していきましょう。

1) Tran DL, Sintusek P. Functional constipation in children: What physicians should know. World J Gastroenterol. 2023 Feb 28;29(8):1261-1288. doi: 10.3748/wjg.v29.i8.1261. PMID: 36925458; PMCID: PMC10011959.
2) http://www.jspghan.org/constipation/index.html(1/23日アクセス)
3) Scott SM, van den Berg MM, Benninga MA. Rectal sensorimotor dysfunction in constipation. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2011 Feb;25(1):103-18. doi: 10.1016/j.bpg.2011.01.001. PMID: 21382582.
4) Hyams JS, Di Lorenzo C, Saps M, Shulman RJ, Staiano A, van Tilburg M. Functional Disorders: Children and Adolescents. Gastroenterology. 2016 Feb 15:S0016-5085(16)00181-5. doi: 10.1053/j.gastro.2016.02.015. Epub ahead of print. PMID: 27144632.
5) Poddar U, Singh S, Pawaria A, Srivastava A, Yachha SK. Aetiological spectrum, clinical differentiation and efficacy of polyethylene glycol over lactulose in children with constipation: Experience of 316 cases. J Paediatr Child Health. 2019 Feb;55(2):162-167. doi: 10.1111/jpc.14099. Epub 2018 Jun 26. PMID: 29943871.
6) Jang HJ, Chung JY, Seo JH, Moon JS, Choe BH, Shim JO. Nationwide Survey for Application of ROME IV Criteria and Clinical Practice for Functional Constipation in Children. J Korean Med Sci. 2019 Jul 8;34(26):e183. doi: 10.3346/jkms.2019.34.e183. PMID: 31269544; PMCID: PMC6609424.
7) Dehghani SM, Kulouee N, Honar N, Imanieh MH, Haghighat M, Javaherizadeh H. Clinical Manifestations among Children with Chronic Functional Constipation. Middle East J Dig Dis. 2015 Jan;7(1):31-5. PMID: 25628851; PMCID: PMC4293798.
8) Russo M, Strisciuglio C, Scarpato E, Bruzzese D, Casertano M, Staiano A. Functional Chronic Constipation: Rome III Criteria Versus Rome IV Criteria. J Neurogastroenterol Motil. 2019 Jan 31;25(1):123-128. doi: 10.5056/jnm18035. PMID: 30646483; PMCID: PMC6326211.
9) Tabbers MM, DiLorenzo C, Berger MY, Faure C, Langendam MW, Nurko S, Staiano A, Vandenplas Y, Benninga MA; European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition; North American Society for Pediatric Gastroenterology. Evaluation and treatment of functional constipation in infants and children: evidence-based recommendations from ESPGHAN and NASPGHAN. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014 Feb;58(2):258-74. doi: 10.1097/MPG.0000000000000266. PMID: 24345831.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT US
能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。