小児における新型コロナワクチンについてのアップデート vol.3

前回の続きになります。小児科学会の提言の最後の小項目の説明になります。

⑤ 小児のワクチン接種に関する膨大なデータが蓄積され、より信頼性の高い安全性評価が継続的に行われるようになった

5~11歳の小児を対象とした検討をまとめた報告では、局所反応や発熱はプラセボと比べて増えるものの、重篤な副反応が有意に増えることはないことが確認されています1)
と小児科学会の提言に説明があります。
まず世界で報告された小児に対するワクチンの安全性についての報告から説明していきましょう。

1つ目:51論文のまとめ

この論文はメタアナリシスといって5,272の論文のうち51のエビデンスレベルの高い論文を選別し、効果や副反応をまとめている論文になります。

2回接種後のオミクロン感染症に対するワクチンの有効性は41・6%、入院の予防効果については 78%でした。
新型コロナウイルス感染症に関連する死亡に対するワクチンの有効性は(死亡数が少ないため)推定できていません。(ここまでは前回の記事の内容と同じですね。先進国では死亡数が少なく統計が出来ず、途上国であるブラジルでは死亡率をさげたという内容でした。)
ワクチン接種を受けていない小児の死亡に関する発生率は、小児10万人当たり1例未満であり、ワクチン接種を受けた小児での死亡報告はありませんでした。

安全性のデータとしては、重篤な副反応はワクチン10万件あたり0.23-1.2件でした。
心筋炎に関しては、ワクチン10万 件あたり0.13-1.04 件が観察されています。

この論文は51論文のまとめになりますのでいままでの内容のおさらいになりますね。
次は日本の報告になります。

2つ目:厚生労働省の報告

有害事象は国内では副反応疑い報告としてモニタリングされ、重大な事象は慎重に検討されていますが、厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)において現在までのところ接種推奨には影響を与えないと判断されています。
国内での検討では、心筋炎の発生率は5~11歳で100万回接種あたり0.6件、0~4歳の小児では報告がありません2)
また、因果関係が否定できない死亡例が小児でも1例報告されていることを踏まえ、日本小児科学会としては今後もリスクベネフィットについては継続的に十分な検討を行っていきます。

と記載あります。
国内全体で4億回以上のワクチン接種が行われ、10月31日公表の情報では5~11歳の小児に対しては、4,436,443回(24.5%)、0~4歳の小児については497,041回(4.3%)の接種が既に行われています3)
直近の2023年10月27日に厚生労働省から報告4)された内容を追記しつつ、詳細を説明していきましょう。

新型コロナワクチン接種開始後の令和3年2月17日から対象期間の令和5年7月30日までにおいて、ファイザー社ワクチン、モデルナ社ワクチン、小児用(5~11歳)ワクチン、乳幼児用(6か月~4歳)ワクチン及び武田社ワクチン(ノババックス)接種後の副反応疑いとして報告された事例について議論されています。
小児(5~11歳)接種後の事例について、対象期間までに、死亡例の報告は3件(100万回接種あたり0.7件)あり、現時点において、ワクチンとの因果関係があると結論づけられた事例はありません。

心筋炎・心膜炎の報告はは、それぞれ2件、2件でした。
乳幼児(6か月~4歳)接種後の事例について、対象期間までに死亡例の報告は1件(100万回接種あたり2.1件)あり、現時点において、ワクチンとの因果関係があると結論づけられた事例はありません。

これらの症例の詳細はPDFに記載されていますので詳しく知りたい方は1番下のサイトから確認ください。
また、心筋炎・心膜炎の報告はなく、熱性けいれんの報告が3件ありました。

その他の症状に係る報告状況も含め、小児接種後と乳幼児接種後の事例は、現時点においてワクチンの接種体制に影響を与える程の重大な懸念は認められないとされています。

まとめ

コロナワクチンによる死亡数は国内でも海外でも大きく変わりないことがわかったと思います。
3回にわけて説明していきましたが、少しは伝わりましたでしょうか。

ざっくり3回の記事をまとめます。
日本における新型コロナウイルス感染症による小児の死亡に関しては、
・コロナウイルスに感染した小児の20万人のうち1人が死亡か後遺症を残す。
・死亡した小児の8割以上はワクチン接種をしていない。
・コロナワクチン接種による小児の死亡率は100万回接種のうち0.7-2人。

数字だけでみればワクチン接種のメリットが大きいことがわかります。命には関わりませんが、コロナウイルス感染後に長期間症状が継続する「後遺症」「ロングコビット」といわれる状態もワクチン接種で予防効果があることも報告があります5)
ですが、注射を好む人は誰もいません。
何回も接種する必要があるため、小児なら嫌がるのは当たりまえです。
それぞれのご家族にとってなにが1番重要なのか、心配なのかを比較検討し、メリットデメリットのバランスでワクチン接種の可否を決定していただければと思います。

最後に、コロナワクチンだけが悪く報道されがちですが、コロナワクチン以外のワクチンでも死亡例はあります。そのためゼロリスクというのは存在しません。ワクチンを接種することもしないこともどちらもリスクであることを認識して判断いただければと思います。

以上になります。
またなにかあればコメントに記載ください。よろしくお願い致します。

1)Piechotta V, Siemens W, Thielemann I, et al. Safety and effectiveness of vaccines against COVID-19 in children aged 5-11 years: a systematic review and meta-analysis. Lancet Child Adolesc Health. 2023 Jun;7(6):379-391. doi: 10.1016/S2352-4642(23)00078-0. Epub 2023 Apr 18. PMID: 37084750; PMCID: PMC10112865
2)第94回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和5年度第5回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料 令和5年7月28日(金).厚生労働省.https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00061.html(参照2023-8-16)
3)新型コロナワクチンについて.首相官邸ホームページ. https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html
4)新型コロナワクチンの副反応疑い報告についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html
5)Watanabe A, Iwagami M, Yasuhara J, Takagi H, Kuno T. Protective effect of COVID-19 vaccination against long COVID syndrome: A systematic review and meta-analysis. Vaccine. 2023 Mar 10;41(11):1783-1790. doi: 10.1016/j.vaccine.2023.02.008. Epub 2023 Feb 8. PMID: 36774332; PMCID: PMC9905096.

4件のコメント

コメントをした者です。まとめていただきありがとうございました。

他のワクチンも当然リスクはあるはずだよなぁ、と漠然と思ってはいたものの、先生のブログを読んで、やはりそうだよなと思うことができました。

このブログを1つの判断材料として、家族で相談して、接種するかしないか、判断しようと思います。
ありがとうございました。

1児の父様

コメントありがとうございました。
物書きの経験がないため、わかりにくい説明になってしまったかと思います。少しでも参考になれば幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。

能登

コロナワクチンとは関係ない話になってしまいますがすみません。
日本脳炎のワクチンは生後6か月から受けられるにも関わらず、
初回接種の推奨が3歳~になっています。
まだ息子は1歳半ですが、先日別の小児科で日本脳炎ワクチンの接種も受けられますよ~と薦められ、早めに受けるべきか迷っています。ご意見頂けますと嬉しいです。

美弥子様

コメントありがとうございます。
ご指摘の通りで生後6か月から接種可能です。例えば、九州や千葉で子育てをされている場合は生後6か月から日本脳炎の接種をする方がほとんどです。
その理由は、日本脳炎ウイルスは豚の血液の中で増殖し、蚊を介して日本脳炎ウイルスが人間に感染します。
そのため養豚場が住居から近い場合には生後6か月からの接種推奨となるわけです。
東京都心には養豚場はありませんから3歳からの接種となります。(3歳以前にワクチンを受ける場合は、近隣の区役所の予防接種課に接種券を個別にお願いしてもらう必要があります。)
過去の歴史から、九州、四国、沖縄、千葉で日本脳炎の罹患歴があるため西日本では生後6か月から接種をする習慣があります。(九州では接種券が生後6か月で既に配られています)

この前提を踏まえて質問にお答えすると、例えば養豚場の近くに実家があるとか、養豚場の近くによく遊びに行く、東南アジアに旅行に行く機会がある場合は生後6か月からの接種がよいと思いますし、養豚場の近くに行く機会がなければ小児科学会推奨の3歳からの接種でよいと思います。
生後6か月から3歳になるまでの期間は接種量が0.25ml、3歳からは0.5mlとなり接種量が異なりますが抗体の保有率に差がないことがわかっています。

そして少し調べられると出てくると思いますが、2005年に一度日本脳炎ワクチンは任意接種になっています。
古いタイプの日本脳炎ワクチンの接種後に急性散在性脳脊髄炎という病気に残念ながら罹患してしまったケースがあり、2005年から2009年まで子宮頸がんワクチンと同様、予防接種の勧奨を控えていた時期があります。
現在は培養細胞を新しくしたことで、安全なワクチンとなり定期接種のワクチンになっていますのでご安心ください。
以上になります。ご参考になれば幸いです。

ワクチンや一般的な疾患の説明も今後の診療の補足としてブログで1つずつ説明したほうがよいのかもしれませんね。
能登

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。