小児における新型コロナワクチンについてのアップデート vol.2

前回の続きになります。日本小児科学会の小項目の説明を続けていきましょう。今回も少し長いのでなかなか読むのが大変かもしれません。

④ 小児へのワクチンは有効である

小児に対するワクチン接種には、発症予防や重症化(入院)予防の効果があることが論文での報告で確認されています。

まず2023年2月16日に発表された論文、5 歳未満の小児におけるワクチンの評価の論文1)から説明します。

1つ目の論文:ワクチンの抗体の評価、副反応と感染予防効果について

この論文の結論はプラセボ群と比較しワクチン接種群は抗体はしっかり産生され、重篤な副反応はなく、感染予防効果もあるになります。

昨年にブログ記事で出したものと同じでまずフェーズ1で効果と副作用の検討をしワクチン(ファイザー社)の接種量を1回3μgでよいということが決められました。
フェーズ2、3で多数の小児に接種を行い、きちんと抗体が産生されているか、副反応はどうか、そして実際新型コロナウイルスに感染予防効果がどれほどだったのかを評価した論文になります。フェーズ2以降ではブラジル、フィンランド、ポーランド、スペイン、アメリカの 65 施設で行われたもののまとめになります。

2021年6月21日から、合計1,776人の生後6か月から2歳未満の子どもと2,750人の2歳から4歳の子どもが対象者に選定され、それぞれ1178名と1835名にワクチンが投与され、598名と915名にプラセボが投与されています。ワクチン投与により抗体が産生されたかについては下の表のかこっている部分を確認ください。

6か月から2歳、2歳から4歳の小児にワクチン3μg投与した抗体量は16歳から25歳の方にワクチン30μg投与した抗体量とほぼ同程度生成されていたことがわかります。副反応に対しては下記になります。

見にくい画像で申し訳ないですが、大きく今まで通りの報告と同じです。
生後 6 か月から 2 歳未満の小児では、発熱においてはワクチン接種群とプラセボ群で副反応の頻度に変わりはありませんでした。
発熱以外の全身性の副反応では、プラセボ群よりもワクチン投与群で多く報告されていますがグラフでみてわかるとおりプラセボ群でも同じくらいの頻度で症状がみられています。
1番多い副反応は過敏性の亢進で約40%症状がみられています。
ほとんどの副反応は軽度から中等度でした。
また、副反応発症時期の中央値は 2~3 日で、 1~2 日以内に症状が消失しています
38.9℃以上の発熱があったのは、生後 6 か月から 2 歳未満の小児の 2.1% 未満、2 歳から 4 歳未満の小児の 1.2% 未満でした。
ほとんどの発熱は 1~1.5 日以内に解熱しています。
そして、副反応による死亡者は出ていません。
心筋炎、心膜炎、麻痺、アナフィラキシーなど重篤な副反応の報告もありませんでした。
次に有効性についてです。
ワクチン接種群873人とプラセボ群381人において、その後何人が実際にコロナウイルスに感染したのかを評価しています。

生後6か月から4歳までの小児では、ワクチン3回目の投与後7日経過した後で実際にコロナウイルスに感染した方は34人(ワクチン接種群で13人、プラセボ群で21人)でした。
ワクチン接種群の方が有意差をもって感染していないことがわかります。
その他の年齢でも同様です。
数値で表すと、ワクチンの有効性は生後6か月から2歳未満の小児では75.8%、2~4歳の小児では71.8%となります。

2つ目の論文:重症化予防効果について

次に紹介する論文はアメリカにおける検討で2021年10月29日~2023年1月6日にかけて100万人以上の11歳以下の小児を対象とした研究です2)
結論です。ワクチン接種群で感染予防効果、入院や重症化予防効果がある。しかし時間と共に有効性は低下したになります。

1,368,721人が研究に参加し、2023年1月6日の時点で、5~11歳の小児39,261人はmRNAワクチンを1回のみ、216,330人は2回のみ、46,895人は3回接種を受けた。0~4歳の小児11,235人はmRNAワクチンを1回のみ、28,066人は2回のみ、11,529人は3回の接種を受けています。
下の表はその詳細で、ワクチン接種者の有無、入院数、死亡数が表記されています。

表の見かたです。黄色で囲っている部分を確認ください。
ワクチン接種を受けていない5歳から11歳の小児584,707人のうち、ワクチン承認以降において11万6,108人のSARS-CoV-2感染を起こし、そのうち141人が入院していることがわかりました。5人が死亡しています。
ワクチン接種を受けた5~11歳の小児302,486人のうち42,484人が感染し、そのうち52人が入院し、そのうち1人だけ死亡しています。

次に長期間の有効性についてです。まず5-11歳のワクチン1回投与のみについてです。

感染症に対する有効性は、最初の投与から 1 か月後には 59.9%ですが、4 か月後には 33.7%に低下、10 か月では14.9%まで低下することがわかります。そのため感染予防効果はいままで言われていたように時期が経過すると効果はなくなってしまいます。
(やはり1回投与だと長期間の感染予防効果はないのですね。。。残念。)

0-4歳のワクチン2回投与の有効性が次の図です。5-11歳の1回投与でない点に注意ください。

こちらは5か月までしかデータがありません。有効性は初回投与後 2 か月で 63.8% 、5 か月後には 58.1%に減少しました。2回投与なので5-11歳のように感染予防効果が急激に低下するとは思えませんが、少しずつ低下するのは間違いないでしょう。

次に入院と死亡に対する有効性です。5-11歳だけですが下記になります。

ワクチン未接種と比較した場合、1か月後に73.3%(8.3~92.3)のレベルに達し、その後は低下しています。
ただし入院数、死亡数の数が少ないため、死亡に対するワクチンの有効性を個別に推定することは出来ず、この数値のほとんどが入院数に対しての有効性であること、また推定値に大きくばらつきがあるためデータの解釈には注意が必要です。

この論文ではワクチン接種は、12 歳未満の小児におけるオミクロン株感染と重篤な転帰に対して有効でしたが、時間の経過とともに有効性は低下したと結論づけています。

今回の論文は重症予防効果があることがわかりました。そのため次は死亡に関してフォーカスした論文を紹介しましょう。長くなってきましたが皆様大丈夫でしょうか。紹介したい論文はたくさんありますが、次の論文で最後です。

3つ目の論文:死亡抑制効果について

2023年7月31日に報告されたブラジルの論文3)です。この論文の結論です。
すべてのワクチン(この論文では3つのワクチンを評価しています)で新型コロナウイルス感染症関連の死亡に対して防御効果を示したになります。

オミクロン株が優勢だった 2021 年 12 月から 2022 年 8 月までのデータを分析しています。ワクチンはBNT162b2(ファイザー社)、ChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ社)、およびCoronaVac(中国製のシノバック)の2回の接種と追加免疫後について感染予防効果と死亡抑制効果を調査しています。年齢は5-11 歳、12-17 歳、18-25 歳でわけられています。

5-25歳の5,787,547人が対象者となり、新型コロナウイルス感染者は2,080,867人、コントロールが3,706,680人です。
ワクチン2回の投与後の感染予防効果は5-11歳で49.4%、12-17歳で26.0%、18-25歳で7.2%と先進国と比較すると圧倒的に低い数値でした。

上の表を見てみると、3つのワクチンではファイザー社が各年齢でまだ高い予防効果があることがわかります。

新型コロナウイルス感染者2,031,819人のうち、904人が死亡しています。
(死亡率0.044492%、日本と比較して高いです。前回紹介した脳症が死因の日本での死亡率で比較すると0.00124-0.00141%でしたので約31.5-35.8倍になります。脳症以外の死因もありますが、ざっくり30倍は死亡率で差があります。)
2回の投与後、死亡に対する予防効果は全体で42%で、追加投与を受けた群は64.5%でした。
年齢別では5-11歳で65.7%、12-17歳で43.4%、18-25歳で32.5%と若年層で高い結果でした。

この論文では小児のワクチン感染予防効果については低いが、死亡に対しては効果があると結論づけています。

まとめ

今回3つの論文をまとめました。結論をつなげると、
対象者がアメリカのような先進国の場合、小児におけるワクチン接種で抗体は産生され、感染予防効果と重症化予防がみられることがわかった。
発展途上国では感染予防効果は低いが死亡抑制効果があることがわかった。
抗体は時期が経過すると低下するため、感染予防効果も死亡抑制効果も時間経過とともに低下する。
になります。これらの報告から日本小児科学会はワクチンは有効であると結論しているわけです。これらの報告以外にもワクチンの有効性を報告している論文はたくさんありますが、概ね同じ内容です。
次回はやっとワクチンの安全性についての説明になります。

さて、写真ですが静岡にある富士スピードウェイ内のピット裏になります。
私は車と飛行機が好きなので、今週末開催されるスーパーフォーミュラ最終戦鈴鹿が楽しみでなりません。
F1となると人が多く、チケット代も高いですが、日本のスーパーフォーミュラは人が少ないため子供連れに優しく、リーズナブルな価格でとても観戦しやすいです。
サーキットは広いので歩くのは大変ですが、どんなに子供達が騒いでもエンジン音の方が大きくそこまで気になりません。
またお祭りみたいな雰囲気もとてもよいです。
現地ではアウトオブキッザニアという名前のサーキットお仕事体験が出来ます。抽選にはなりますが、当たった方はとてもよい経験になると思います!
しかも今年はF1に参戦している選手もスーパーフォーミュラに参戦しており、写真が撮れたり、サインをもらえるので車好きの私にとっては涙もののイベントです。
もし興味がある方はぜひ来年の富士開催をチェックしてみてください。(スーパーフォーミュラだけでなくWECも楽しいですよ)
子供達はF1ドライバーのリアムローソン選手推し、私は3年連続シリーズチャンピオンを狙っている野尻智紀選手推しです。本当にどのドライバーも子供に優しく最高です!


1)Muñoz FM, Sher LD, Sabharwal C, et al. Evaluation of BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children Younger than 5 Years of Age. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):621-634. doi: 10.1056/NEJMoa2211031.
2)Lin DY, Xu Y, Gu Y, et al. Effects of COVID-19 vaccination and previous SARSCoV-2 infection on omicron infection and severe outcomes in children under 12 years of age in the USA: an observational cohort study. Lancet Infect Dis. 2023 Jun 16:S1473-3099(23)00272-4. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00272-4. Epub ahead of print. PMID: 37336222; PMCID: PMC10275621.
3)Oliveira EA, Oliveira MCL, Simões E Silva AC, et al. Association of Prior COVID-19 Vaccination With SARS-CoV-2 Infection and Death in Children and Young Persons During the Omicron Variant Period in Brazil. JAMA Pediatr. 2023 Jul 31:e232584. doi: 10.1001/jamapediatrics.2023.2584. Epub ahead of print. PMID: 37523191; PMCID: PMC10391357.

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。