食物アレルギーについて アップデートと振り返りvol.1

食物アレルギーに関してのアップデートをしてほしいというコメントがありました。
先日日本アレルギー学会があり参加してきましたが、残念ながら以前に記載したブログ内容から大きく変わるようなホットトピックはありませんでした。
食物アレルギーガイドラインが発行されており、今までガイドラインにそって診療をしてきたわけですが、実際のところ、こうしたら完全に食物アレルギーを予防出来るとか、こうしたら食物アレルギーが治癒するというものはわかっていません。
(それがわかれば世界的に有名な偉い先生になれます。)

以前にもブログで記載したPETITスタディによって皮膚の保護と早期の離乳食開始が提言され、日本の食物アレルギーガイドラインもその通りに記載がされています。ヨーロッパのガイドラインも概ね同じです。PETITスタディの詳しい内容は下記記事を参照ください。

食物アレルギーの予防に関しては、
生後5-6か月から離乳食を開始し、心配だからといって卵などの食物を除去しないこと
乳幼児期にアトピー性皮膚炎と診断された場合はしっかりと治療すること
大事なのはこの2点です。

食物アレルギーの治療に関しては患者さん毎に食べられる量が変わりますので個別に相談していき食べられる量を無理なく継続していくことになります。

ただ、学会の講演を聞いて、今までの歴史や流れ、最近の論文などがありましたので講演の内容を振り返りながらまとめていきたいと思います。

食物アレルギーによるアナフィラキシーは世界的に増加傾向にある

2015年のオーストラリアの報告1)では、食物に関連したアナフィラキシーの数は下の表にある通り増加していることがわかります。

オーストラリアだけでなく、香港の報告2)でも小児の食物におけるアナフィラキシー数が増加傾向にあることが報告されています。(2014年から急増しています!)

同じ民族なのに香港ではアレルギーの罹患率が上昇していますが、中国の田舎では食物アレルギーの増加はしていません。インドやアフリカでも食物アレルギーの増加はほとんどありません。そのため、生活環境のなにかがアレルギーに影響しているはずで、その原因を調べるためにあらゆる研究がされてきました。(実際これ!というものはまだわかっていません。。。)

アレルギー発症は二重暴露仮説が現在の主流

現在のアレルギーの発症についての考え方は二重暴露仮説が一番有力です。
以前にも説明3)しましたが、図の左側、皮膚からの感作によりアレルギーの発症がおこります。図の右側、口から食物をとり消化管によってアレルギー症状がでなくなっていく(免疫寛容といいます)ことが概ねわかってきました。

そのため、アトピー性皮膚炎の児は食物アレルギーの高リスクとなります。しっかりと皮膚のケアをすることが大事です。
そして、アレルギーが怖いからと食物の摂取を遅らせることは逆効果で、早期の離乳食開始が推奨されます。
食物アレルギーがある場合でも、症状の出ない最小量を摂取することで消化管による免疫寛容を促して、食物アレルギーの治癒につなげることが重要であることが世界的にひろがりました。

LEAPスタディ:ハイリスク児ではピーナッツを早期に食べてピーナッツアレルギーの発症が予防出来た。

この二重暴露仮説を証明するため、大規模な臨床試験が世界各国で行われるようになりました。
2015年に発表されたLEAPスタディ4)から紹介します。
この研究は湿疹のひどい子、もしくは卵アレルギーのあるハイリスクの児に対し生後60週までにピーナッツを摂取するかしないかで、ピーナッツアレルギーの発症の差を比較した研究です。
結果は下の表で、Avoidanceがピーナッツを摂取していない群、Consumptionがピーナッツを摂取した群です。

ハイリスクの児においては、ピーナッツを食べたほうがアレルギーの発症が予防出来たことがこの研究からわかりました。
ではハイリスク児でない場合はどうでしょうか。

EATスタディ:生後3か月から早期摂取を試みたが、親の負担が強く研究自体がうまくいかなかった。

2016年に発表されたEATスタディ5)を説明します。
この試験は完全母乳の生後3か月の児にピーナッツ、卵、牛乳、ゴマ、白身魚、小麦を早期に導入するグループと、生後6か月からこれらの食品を導入する群とで比較し、1歳から3歳までの間に食物アレルギーが発症するかを確認した試験です。

まず生後3か月から食事を導入することが出来たのは全体の約50%くらいでした。
(卵は43.1%、ゴマは50.7%、魚は60.0%、ピーナッツは61.9%、牛乳85.2%)
それだけ早期に食物を摂取させるのは研究であったとしても大変であることがわかります。
そして早期導入群の親のQOLはとても下がってしまいました
この研究に参加した親御さんがとても大変だったことがわかります。

その上で、早期導入群と通常導入群のアレルギー発症の差をみると、

確かに緑の早期導入群のほうが発症を抑えられてはいますが、明らかな差とはなっていないため、この研究としての結論は早期導入の有効性は示されなかったとしています。

では湿疹についての介入をおこなうとアレルギーの発症はどうなるのかというのを研究したものを次回の記事で紹介しましょう。

1) Mullins RJ, Dear KB, Tang ML. Time trends in Australian hospital anaphylaxis admissions in 1998-1999 to 2011-2012. J Allergy Clin Immunol. 2015 Aug;136(2):367-75. doi: 10.1016/j.jaci.2015.05.009. Epub 2015 Jul 14. PMID: 26187235.
2) Li PH, Leung ASY, Li RMY, Leung TF, Lau CS, Wong GWK. Increasing incidence of anaphylaxis in Hong Kong from 2009 to 2019-discrepancies of anaphylaxis care between adult and paediatric patients. Clin Transl Allergy. 2020 Nov 19;10(1):51. doi: 10.1186/s13601-020-00355-6. PMID: 33292497; PMCID: PMC7677822.
3) Du Toit G, Sampson HA, Plaut M, Burks AW, Akdis CA, Lack G. Food allergy: Update on prevention and tolerance. J Allergy Clin Immunol. 2018 Jan;141(1):30-40. doi: 10.1016/j.jaci.2017.11.010. Epub 2017 Nov 27. PMID: 29191680.
4) Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, Bahnson HT, Radulovic S, Santos AF, Brough HA, Phippard D, Basting M, Feeney M, Turcanu V, Sever ML, Gomez Lorenzo M, Plaut M, Lack G; LEAP Study Team. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015 Feb 26;372(9):803-13. doi: 10.1056/NEJMoa1414850. Epub 2015 Feb 23. Erratum in: N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):398. PMID: 25705822; PMCID: PMC4416404.
5) Perkin MR, Logan K, Tseng A, Raji B, Ayis S, Peacock J, Brough H, Marrs T, Radulovic S, Craven J, Flohr C, Lack G; EAT Study Team. Randomized Trial of Introduction of Allergenic Foods in Breast-Fed Infants. N Engl J Med. 2016 May 5;374(18):1733-43. doi: 10.1056/NEJMoa1514210. Epub 2016 Mar 4. PMID: 26943128.

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能登 孝昇
2023年8月まで氷川台のと小児科クリニック院長を務めました。 2024年4月から赤塚にてサンスカイのと小児科クリニックを開業しました。 今後もこどもに関しての情報と、私の今後について発信していけたらと思います。