以前に小児生活習慣病専門外来を開設する記事を以前に作成しました。
肥満が専門の教授でもある小児科医の杉田先生に週1回来ていただき、InBodyという機器も導入しました。
ですが、サンスカイは肥満の児だけをフォローするわけではありません。
もっと広い視野で小児の健康維持に関わっていきたいと考えており、今回も日大板橋病院との共同研究をスタートさせたいと考えています。
テーマは「InBodyにおける日本人小児の体脂肪・筋肉量の正常基準値の作成」です。
1つずつ説明していきましょう。
この記事の目次
なぜ今、“体脂肪と筋肉量の正常値”が必要なのか?
子どもたちの健康を守るうえで、身長や体重といった“見た目の数値”だけではわからないことがたくさんあります。
特に近年注目されているのが「体脂肪」と「筋肉量」のバランスです。
今までのブログ記事でお伝えしてきましたが、身長と体重でわかるのはBMIと肥満度でした。
「BMIは正常だったのに、体脂肪率は高かった」
「体格はしっかりしているけれど、実は筋肉量が不足していた」
こうした“見えにくい問題”が、小児の肥満や将来の生活習慣病リスクと関係していることが、海外の研究でわかってきました。
・成長期において、BMIは正常でも体脂肪量が多い、腰囲が大きい児「隠れ肥満児」は、早期から成人期にかけて心血管代謝疾患のリスクが高まることがわかったため、見た目が標準でも内部では代謝疾患のリスクが潜んでいるため、内臓脂肪指標の重要性をこれらの研究1,2)では強調されています 。
・約6,500名のコホート研究では、BMIだけでなく、体脂肪量・腹部脂肪の蓄積が高血圧、LDL/HDL、インスリンなど、心血管リスク因子と明確に関連しており、BMIに依存しない脂肪指標が、小児期からの健康評価に有用であると結論づけられています3)。
これらの報告以外にも同様の報告は多く、大事なのは体脂肪や腹部の脂肪であることがわかります。
しかし、日本ではまだ「日本人小児の体脂肪・筋肉量の正常値」が確立されていないのが現状です。(もちろん全くないわけではありませんが、InBody含め参考値となっています)
海外では既に、正常値データの整備が進んでいる
たとえばチェコでは、6歳から11歳の学童を対象に、体脂肪量や骨格筋量などの詳細なデータを収集し、年齢・性別ごとにパーセンタイルを作成した研究4)が行われています。
同様の研究は他のヨーロッパ諸国やアジア圏でも始まっており、“肥満の判定”や“筋肉不足(サルコペニア)のリスク評価”に活用されつつあります。
ところが日本では、こうした 「小児の体組成データの基準値」 が存在していません。
そのため、現場の医師や保護者も、「今の体脂肪率が高いのかどうか」「筋肉量は標準的なのか」といった判断がしにくい状態です。
そのため、わからないことを明らかにするため、基準値作成の研究をスタートするということです。
具体的には5歳から12歳(12歳以上ももちろん可能です!)のお子さんを対象に、InBody270Sを使った体組成データの測定と記録を行い、日本人小児の体脂肪・筋肉量の正常値の作成に取り組むことにします。
在胎週数、出生時体重・身長、性別、InBody測定時の年齢などの基本情報と、体脂肪量・筋肉量・骨格筋量・SMI(筋肉量÷身長²)などの体組成データを収集し、正常範囲を年齢・性別ごとに統計的に整理していく予定です。
これにより、単なる“BMIの数値”では判断できない、体内のバランスを正確に把握できるようになります。
この研究で見えてくるもの
この研究が進むことで、以下のような問題点が明らかになります:
・一見「痩せている」けれど、実は脂肪が多く、筋肉が少ないお子さん(生活習慣病のリスクが高まる“隠れ肥満”のお子さんであり介入が必要)
・BMIは高めだが、筋肉量が豊富で健康的な体型のお子さん(区の肥満健診には引っかかるが健康であり問題なし)
などです。
将来的には、「筋肉を増やす運動が必要か」「食事の脂質を見直すべきか」といった、個別最適化されたアドバイスや生活習慣の指導にもつなげていきたいと考えています。
ご家族へのお願いとご協力のお願い
私たちのこの取り組みは、地下鉄赤塚地域の皆さまのご理解とご協力なくしては成り立ちません。
ご来院時にお声かけし、対象年齢のお子さんにInBody測定をお願いすることがあります。
もちろん費用は無料です。
測定は痛みもなく数分で終わりますので、ぜひご協力をお願いいたします。
最後に:未来の健康をつくる一歩として
日本の子どもたちの将来の健康のために、日本人の体型・体質に合った基準をクリニックから発信していきたい!
この研究にはそんな私の思いが込められています。
感染症を診るだけが小児科クリニックではありません。
斜頭症の研究も同様ですが、小さなクリニックであったとしてもなにか社会に貢献できることがあるはずです。
サンスカイから始まるこのチャレンジが、未来の子どもたちの健康を守る一助になれば幸いです。
1,000症例は必要だと思いますので、最低2年くらいはデータの収集に時間がかかると思います。ただ、この研究も数年後にはまた違う景色をみせてくれるのではないかなと期待しています。
引き続き、研究の進捗や分析結果は当ブログでもご報告してまいります。
以上になります。
写真はとうもろこしの種をまいているものです。かかしも作りました。
そして先日とうもろこしの収穫をしてきました。

獲れたてのとうもろこしは生でも食べられ、みずみずしくとても美味しかったです。
この写真のように研究もうまく実ってほしいものです。
1) Wiklund P, Törmäkangas T, Shi Y, Wu N, Vainionpää A, Alen M, Cheng S. Normal-weight obesity and cardiometabolic risk: A 7-year longitudinal study in girls from prepuberty to early adulthood. Obesity (Silver Spring). 2017 Jun;25(6):1077-1082. doi: 10.1002/oby.21838. Epub 2017 Apr 21. PMID: 28429877.
2) Nier A, Brandt A, Baumann A, Conzelmann IB, Özel Y, Bergheim I. Metabolic Abnormalities in Normal Weight Children Are Associated with Increased Visceral Fat Accumulation, Elevated Plasma Endotoxin Levels and a Higher Monosaccharide Intake. Nutrients. 2019 Mar 18;11(3):652. doi: 10.3390/nu11030652. PMID: 30889844; PMCID: PMC6470572.
3) Gishti O, Gaillard R, Durmus B, Abrahamse M, van der Beek EM, Hofman A, Franco OH, de Jonge LL, Jaddoe VW. BMI, total and abdominal fat distribution, and cardiovascular risk factors in school-age children. Pediatr Res. 2015 May;77(5):710-8. doi: 10.1038/pr.2015.29. Epub 2015 Feb 9. PMID: 25665058.
4) Zbořilová V, Přidalová M, Kaplanová T. Body Fat Mass, Percent Body Fat, Fat-Free Mass, and Skeletal Muscle Mass Reference Curves for Czech Children Aged 6-11 Years. Children (Basel). 2021 May 4;8(5):366. doi: 10.3390/children8050366. PMID: 34064402; PMCID: PMC8147804.
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