斜頭症研究 2022年9月までに新たにわかってきたこと 論文の紹介

コロナの流行で全くブログが進みませんでした。というか、3Dスキャナー購入したのに全く使えていません。。。
9月下旬の今、コロナが少し落ち着いてきましたので、今までわかってきた斜頭症の研究の振り返りをしていきたいと思います。
研究を始めた2020年4月から追加で4論文がアクセプトされています。伝えたい要点は、

・日本人の生後1か月児の64.7%が斜頭症であり重症斜頭症の割合は6.6%であった。生後1か月児の頭蓋形状の基準値がわかった。
・斜頭症は生後1か月児から生後3か月にかけて悪化し、生後6か月で少し改善することがわかった。
・早産時は正期産児に比べ長頭症(横幅がせまく、縦に頭が長い)が多いことがわかった。
・測定方法はCA(2次元)だけでは評価が不完全の症例が存在する。可能であれば3Dスキャンをして体積比較(3次元)で評価をしたほうがよい

ということになります。
日本の赤ちゃんの斜頭症の頻度が非常に高いことに驚きました。実際の数字をみると半分以上が斜頭症でした。
頭の変形は生後3か月で一度悪くなるため、ヘルメット療法をする際は注意が必要です。
早産児の長頭症は頻度が高く、これもヘルメット療法で改善可能です。
現在3Dスキャンを行える施設は少ないですが、3Dスキャンのほうがやはり評価の尺度としてはよりよいということがわかりました。

詳しい内容を知りたい方はそのまま読み進めていただければと思います。
斜頭症に関しての基本的な説明、斜頭症の重症度の分類の方法、用語については下記の以前のブログを確認いただければと思います。

日本人の生後1か月児の64.7%が斜頭症であり、重症斜頭症の割合は6.6%であった。
生後1か月児の頭蓋形状の基準値がわかった。

1つ目の論文1)の説明です。
2020年4月から2021年3月までに日本大学板橋病院、春日部医療センター、氷川台のと小児科クリニックの3 つの病院に1か月健診で受診した153人が登録されました。3Dスキャナを用いて頭蓋形状を測定し、画像解析ソフトを用いて解析しました。CVAI>3.5%を斜頭症の診断、CVAI>10%を重症斜頭症と定義しました。

結果です。測定時の平均月齢は35.7日、CAの平均値は6.4 mm、CVAIの平均値は5.0%、前頭部左右対称率の平均93.1%、後頭部左右対称率の平均91.3%でした。斜頭症の割合は64.7%、重症斜頭症の割合は6.6%でした。

考察です。斜頭症の有病率はカナダで46.6%アメリカで48%です。これまでの国際的な基準で斜頭症と診断すると日本の斜頭症の有病率は64.7%(高い!!)であり他国と比較し斜頭症の有病率が高い結果となりました。
CVAI>5%を斜頭症の診断定義にした場合、有病率が47.7%となり他国のデータとほぼ一致することから、今までの基準が日本人に適応されるか大規模研究で今後明らかにする必要があります。
詳細な論文の内容を確認したい場合は下記サイトから内容を確認ください。https://www.jstage.jst.go.jp/article/nmc/62/5/62_2021-0384/_article

斜頭症は生後1か月児から生後3か月にかけて悪化し、生後6か月で少し改善することがわかった。

2つ目の論文2)の説明です。これは先ほどの1か月児を追跡調査し生後3か月、6か月と3Dスキャンをすることでどのような頭蓋形状の経緯をたどったかを確認した論文になります。

2020年4月1日から2021年4月30 日までの研究期間中に3病院を訪れた健康な乳児92人が最終的に登録されました。斜頭症の診断はCVAI>5%の場合とし、軽症:5.00〜6.25%、中等症:、6.25~8.75%、重症:8.75〜11%、最重症:>11%と定義し評価しました。同様に3Dスキャンを使用して計測、評価を行いました。

ここでの注意点は斜頭症の診断基準がCVAI>5%になっており、一般的に斜頭症と診断する基準(CVAI>3.5%)より厳しく設定しています!!

結果です。1回目の測定日:37.8 ± 6.4 日、2回目測定日:99.2 ± 8.6 日、3回目測定日:188.5 ± 11.1 日でした。

上の表の説明です。これは各頭蓋の数値の変化になります。上からCA、CVAI、前頭部左右対称率、後頭部左右対称率、斜頭症の有病率になります。

CA平均値は生後1か月の6.4mmから生後3か月にかけて8.0mmと大きく悪化していますが、生後6か月にかけて6.8mmと若干改善しています。
CVAI平均値は、生後1か月で5.0%から生後3か月にかけて5.8%と悪化していますが、やはり生後6か月にかけて4.7%と生後1か月の時より改善しています。
この流れは後頭部対象率でも同じでした。
表の1番下、斜頭症の有病率は生後1か月で50%、3か月で56.5%、6か月で44.6%でした。73.9%の乳児は、生後1か月における斜頭症の重症度が生後6か月でも同じ重症度でした。

上の表の説明です。
生後6か月の時点でCVAI>8.75%の重症斜頭症児の生後1か月における各計測値の予測になります。AがCA、BがCVAI、Cが後頭部左右対称率になっています。
説明されても難しいと思いますので結論は、
生後1か月においてCA:10.2mm、CVAI:7.76%、後頭部左右対称率:87.9%よりも数値が悪ければ、生後6か月の時点で斜頭症が重症である可能性が高い」になります。
斜頭症の有病率、重症度は生後1か月から生後6か月の経過で悪化はありませんでした

考察です。
生後1か月から生後3か月にかけて悪化し、生後6か月にかけて改善したことがわかりました。そのため生後3か月で斜頭症が気になったとしても生後6か月にかけて少し改善することが期待出来ます。また生後1か月の時点での斜頭症の評価で今後ヘルメット療法が必要になるかある程度予測できるため、親御さんがヘルメットをするかしないかの検討をする時間がとれるのもよい点でした。

この論文では斜頭症の有病率を減らすことを目的として大規模な研究が必要であると最後に記載しました。我々は予防のデバイスを開発し、使用の有無で斜頭症の有病率を比較した研究を今後予定しています。
詳細な論文の内容を確認したい場合は下記サイトから内容を確認ください。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8999343/

早産時は正期産児に比べ長頭症(横幅がせまく、縦に頭が長い)であることがわかった。

3つ目の論文3)です。この論文は生後1か月の早産児と正期産児の頭蓋形状に差があるかというのを研究したものになります。

2020年4月1日から2021年3月31日までの研究期間中に4病院(いつもの3つの病院に都立大塚病院が入っています)のいずれかの新生児集中治療室(NICU)に入院した生後37週未満の早産児94人と、正期産の健康な乳児165人が登録されました。同様に3Dスキャンを使用して計測、評価を行いました。

今回の論点である長頭症と短頭症の説明をします。
通称絶壁といわれる短頭症(Brachycephaly)は、左右径に対し前後径が短い状態をいいます。
逆に長頭症(Dolichocepaly)は前後径に対し左右径が短い状態(頭の横幅がせまく、縦に長い状態)になります。論文内ではCIと表記し、左右径/前後径で示されています。CIの定義は2種類あり、国際的な基準ではCI≤75.9で長頭症、CI:76.0-80.9で正常、CI≥81で短頭症と定義され、日本の基準では、CI≤79.1で長頭症、CI:79.2-93.8で正常、CI≥93.9で短頭症と定義しています。(全然違うじゃん!というツッコミが入りますよね笑)

結果です。

上の表の説明です。Pretermは早産児の意味、Full-termは正期産を意味します。この表をみて国際基準(International Classification)ではむしろ早産児が均等に30%ずつ分布しているのに比較し正期産の子は77.6%短頭症の診断となります。右の日本の基準(Japanese Classification)に当てはめてみると、早産児の半分が長頭症の診断、正期産の84.8%が正常となりました。

考察です。基準によって判断がわかれてしまいますが、日本のCIの基準でいくと、早産児の約半分が長頭症という結果となりました。
これは、ノースカロライナ州で行われた32週以下の早産児の54%が長頭症であり、理学療法をうけたという報告結果に似ています。(基準が異なりますが)
もともと日本、韓国、中国などの東洋人は西洋人と比較し明らかに短頭症であることがすでに報告されています。
そのため、人種間の基準を作成や、新しい評価基準を作成する必要があるかもしれないと最後に記載し終了しています。
詳細な論文の内容を確認したい場合は下記サイトから内容を確認ください。

https://www.brainanddevelopment.com/article/S0387-7604(22)00117-6/fulltext

測定方法はCA(2次元)だけでは評価が不完全の症例が存在する。可能であれば3Dスキャンをして体積比較(3次元)で評価をしたほうがよい。

4つ目の論文4)です。この論文は頭蓋の測定方法について検討した論文になります。もともと頭蓋計測は2次元でおこなういわゆる計測でした。しかし近年3Dスキャナーが普及し3次元で頭蓋の変形を評価出来るようになりました。まだ世界的なスタンダードは2次元での評価ですが、2次元と3次元での評価はどの程度の精度で異なるのか、なにが問題点なのかを検討しました。

2020年4月1日から2021年4月30 日までの研究期間中に3病院を訪れた健康な乳児530人が最終的に登録されました。今まで同様、3Dスキャナを用いて頭蓋形状を測定し、画像解析ソフトを用いて解析しています。3次元の指標は前頭部左右対称率(ASR)後頭部左右対称率(PSR)<80.5%の場合に重症、2次元の指標はCA>12mmで重症と定義しています。2次元と3次元の重症度の割合、2次元が重症で3次元が軽症、その逆のパターンについて頭蓋の特徴を検討しました。

結果です。

上の表はAがCAとASRの相関、BがCAとPSRの相関になります。CAとASRで73.4%、CAとPSRで82.6%で重症度が一致しました。見た目通り、2Dと3Dの結果は概ね一致することがわかりました。

上の表は2D評価で重症、3D評価で軽症が68/530人(12.8%)、2D評価で軽症、3D評価で重症が20/530人(3.8%)みられました。この3D評価で重症、2Dで軽症の20人をより詳細に調査したところ、頭蓋の最大値と思われるところよりも頭頂部の部位で変形が強いことがわかりました。

考察です。今回、2D評価で軽症と診断されていても3D評価で重症であり、ヘルメット療法の適応となる患者が一定数いることがわかりました。
しかし、3Dスキャナーは高価であり、3D画像の撮影、画像構築とも時間と高い技術を要するため、一般的な医療機関で使用するためには高いハードルがあります。
そのため、可能であれば両方の検査で評価することが望ましいという文章で締めくくっています。

詳細な論文の内容を確認したい場合は下記サイトから内容を確認ください。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9221621/

まとめ

少しずつですが、日本人でのデビデンスが蓄積されていることは喜ばしいことです。
2020年から斜頭症の研究を開始し2年半でここまでわかってきました。
ヘルメット療法についてもだいぶ認知が広がったように感じます。

次のステップはいよいよ医療器具を使用した斜頭症の予防枕についての研究がスタートします。
多分研究開始が早くて2022年の年末で、結果が出るのが2023年の年末の予定です。
2025年に生れてくる赤ちゃんくらいから、斜頭症の予防の枕を一般的に普及出来るレベルまで周知することが当面の目標となりそうです。
そこまでいけば、斜頭症の研究は一段落なのかもしれません。

以上になります。引き続き体調に気を付けて元気に発熱外来頑張ります!!

1) Miyabayashi H, Nagano N, Kato R, Noto T, Hashimoto S, Saito K, Morioka I. Reference Values for Cranial Morphology Based on Three-dimensional Scan Analysis in 1-month-old Healthy Infants in Japan. Neurol Med Chir (Tokyo). 2022 May 15;62(5):246-253. doi: 10.2176/jns-nmc.2021-0384. Epub 2022 Apr 1. PMID: 35370246; PMCID: PMC9178114.
2) Miyabayashi H, Nagano N, Kato R, Noto T, Hashimoto S, Saito K, Morioka I. Cranial Shape in Infants Aged One Month Can Predict the Severity of Deformational Plagiocephaly at the Age of Six Months. J Clin Med. 2022 Mar 24;11(7):1797. doi: 10.3390/jcm11071797. PMID: 35407405; PMCID: PMC8999343.
3) Miyabayashi H, Nagano N, Kato R, Hashimoto S, Saito K, Noto T, Ohashi S, Masunaga K, Morioka I. Cranial shapes of Japanese preterm infants at one month of age using a three-dimensional scanner. Brain Dev. 2022 Jul 26:S0387-7604(22)00117-6. doi: 10.1016/j.braindev.2022.07.004. Epub ahead of print. PMID: 35906116.
4) Kato R, Nagano N, Hashimoto S, Saito K, Miyabayashi H, Noto T, Morioka I. Three-Dimensional versus Two-Dimensional Evaluations of Cranial Asymmetry in Deformational Plagiocephaly Using a Three-Dimensional Scanner. Children (Basel). 2022 May 27;9(6):788. doi: 10.3390/children9060788. PMID: 35740725; PMCID: PMC9221621.

4件のコメント

興味深く拝読しました。現在2歳半の息子がCA値重症の斜頭症なのですが、半年程前にスクリーニング検査したところ左目の遠視が判明し、眼鏡による矯正治療に臨む事になりました。斜頭症と遠視•弱視の関係性はあると思われますか?ぜひご見解を伺えますと幸いです。

ご質問ありがとうございます。来年のアメリカ小児科学会で発表する内容なので詳細な説明は発表後となってしまうのですが、少なくとも斜頭症と斜視の関連は当院で検査した結果、関連はありませんでした。
弱視に関しても関連はないと発表する予定です。
ざっくりと説明すると、重症斜頭症と健常児で弱視、斜視の頻度に差はなく、弱視、斜視の子のみを3Dスキャンしたが、斜頭症の重症度との相関はなしという結果でした。
以前までの報告では斜頭症と弱視、斜視は関連するという論文がありましたので、日本人で検証した最初の報告になる予定です。

先天性頭蓋骨縫合癒合症である場合、顔面の骨の変形を伴うため、目の周囲の骨も変形し視力に影響を及ぼすことが既に分かっています。
そのため、重症斜頭症で顔面変形が強く出ている場合は、目の周囲の骨の変形を合併することで弱視になる可能性はゼロとは言えませんが、今回の研究結果では関連はありませんでした。
先天性頭蓋骨縫合癒合症である場合は発達遅延や強い顔面変形を合併します。お子様にそのような症状がなければ斜頭症の診断となると思いますので、現時点では斜頭症と遠視は関連なしという結論になります。

もともとこの発表の意義は、斜頭症をヘルメットで治療しなかったために弱視、斜視となってしまったのではないか、やはりヘルメット療法をしたら予防出来たのではないか、という親御さんの質問から生まれた研究です。2年みてきた印象として弱視、斜視と斜頭症の関連はなさそうだと感じていましたので、来年の発表、その後の論文作成を完了することできちんとエビデンスにすることが重要と考えています。
そのため、N様が責任を感じる必要はなく、もともとお子さんに遠視の素因があったものと思われます。長文失礼しました。

ご丁寧なご返信誠にありがとうございます。
まさに先生が仰られた“予防できたのでは”という親としての思いが募り今回質問させて頂いたのですが、現時点では関連性は無いと思われるとのこと、お聞きできて良かったです。眼科医と相談の上、視力矯正に臨んでいければと思います。今後もブログ拝読いたします。

研究を継続することで、少しでも皆様のお役に立てるよう微力ながら尽力していきたいと思っています。
今後ともよろしくお願い致します。

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