久しぶりのブログ更新です。
現在新型コロナウイルスが流行しており研究どころではなくなっていますが、2021年の年末にアメリカ小児科学会(PAS (Pediatric Academic Societies) Meeting 2022)に演題を投稿し、先日アクセプトの通知がきました。
今回のブログは、その演題の解説になります。
テーマは「斜頭症におけるアルジェンタ分類とCA値の相関について」です。まず結論から。
見た目で評価するアルジェンタ分類のタイプとCA値の相関は明らかになっていません。
その関係を明らかにすることを目的としました。
結果、アルジェンタ分類の最重症であるタイプ5はCA中央値14.2mm(7.4-24mm)でした。
アルジェンタ分類タイプ5のうち15%はCA値で重症ではありませんでした。
見た目の重症度とCA値はばらつきがあるため、CA値で重症度分類したほうがよい。
という内容です。まとめもなんだが難しいですね。1つずつ説明していきましょう。
アクセプトされた抄録を一番最後に添付します。気になる方は最後の原文を確認後に内容をご確認ください。
斜頭症についての基礎的なところは以前までの記事をご覧いただければと思います。
学会発表は論文と違いエビデンスとしては噂話程度であり、この内容を論文化して初めて価値をもちます。
そのため学会発表をする意義はズバリ「いろんな先生に意見をもらうこと」です。
様々な意見や問題点を論文の考察にいれることで、よりよい論文にすることが出来ます。
きちんと論文化まで頑張ります!
この記事の目次
はじめに 斜頭症の分類についておさらい
まず、斜頭症の分類をおさらいしましょう。
斜頭症の分類は大きく3つありました。
1:見た目で重症度を評価するArgenta(アルジェンタ)分類
2:頭蓋の対角線の差でみるCA(Cranial Asymmetry)
3:頭蓋の後頭部の体積の差でみるアイメットの重症度分類
でした。今回のテーマは、1と2を比較してアルジェンタ分類のタイプ毎のCA値がどの程度なのかを明らかにすることでしたので、改めて重症度分類の方法を確認します。
(ちなみに2と3の比較は共同研究者である日大の先生が論文の投稿までいっています。乞うご期待!)
見た目で重症度を判断するアルジェンタ分類から説明していきましょう。
タイプが進むほど重症度があがります。
右の斜頭症の児で解説します。
アルジェンタ分類
アルジェンタ分類:タイプ1
右後頭部のへこみがでています。まだ耳のずれはありません。
アルジェンタ分類:タイプ2
タイプ2では、右後頭部のへこみに加えて右耳が前にずれてきます。
アルジェンタ分類:タイプ3
タイプ3は右耳のずれに加えて、右のおでこ(前頭部)が前に突出してきます。
アルジェンタ分類:タイプ4
タイプ4は前頭部にくわえ右頬の突出と顔面変形が加わります。右耳の位置が下がることで、目の位置、下顎の位置もずれているのがわかります。
アルジェンタ分類:タイプ5
タイプ5は最終的に反対の左後頭部が突出してきます。このような流れで斜頭症は進行します。
次にCAの分類についておさらいしましょう。
CA(Cranial Asymmetry)分類
頭蓋のY軸から30度の対角線の差を表すものがCAでした。
この図ではCA=対角線A-対角線Bで求められます(対角線A>B)
そしてこの数値の重症度がアメリカの小児科の教科書(ネルソン小児科学)では、
軽症:3–10mm、中等症:10–12mm、重症 12mm以上でした。
成育医療センターの重症度分類では、軽症:6–9mm、中等症:9–13mm、重症 13mm以上であり、重症度が世界的に決まっていないという問題点がありました。
(このことについてもいずれ論文として言及しないといけません。)
今回の研究では重症度を12mm以上に定義しておこなっています。
この2つの分類の相関を調べてみようというのが今回のテーマです。
次に抄録の内容を日本語で説明していきます。
抄録の内容 日本語版 背景と目的
背景:斜頭症の重症度は、アルジェンタ分類やCA値で判定されます。アルジェンタ分類は見た目のみで行われるため、評価は非常に簡単です。近年3DスキャンによりCA値を測定し、斜頭症の重症度を決定することが行われています。
しかし、アルジェンタ分類とCA値 の相関は評価されていません。
目的:日本人の斜頭症において、アルジェンタ分類とCA値の相関を明らかにすること。
方法
方法:2020年4月から2021年11月にクリニックに受診した生後3~7か月(中央値:4か月)の健康な乳児304名を対象にしました。アルジェンタ分類を用いて斜頭症の重症度を決定した後、CA値の中央値を算出しました。そして、CA < 12 mmとアルジェンタ分類タイプ5の頻度を比較しました。
結果
まず、下記の結果の表を確認ください。
304人のうち、アルジェンタ分類1から5までの人がNumberに記載されています。()の中はその割合の%になります。
例えば、アルジェンタタイプ1は、48人で全体の16%、CAの中央値は2mmであり、CAは0mm~8mmの乳児がいたということになります。そのため、耳のずれがみられるタイプ2はCAの中央値が4mm、顔面変形が生じるタイプ4はCA中央値9.9mmになったということです。
アルジェンタ分類とCA値の間には強い相関が認められました。(r=0.72, p<0.001)
つまりアルジェンタ分類の重症度があがれば、CA値もあがるということを意味します。
アルジェンタ分類タイプ5の乳児72人のうち,11人(15.2%)がCA≦12mmでした。
CA値が重症でない児が11人含まれていたということです。
結論
CAは、アルジェンタ分類よりも斜頭症の重症度をより正確に判断することが出来ます。
しかし、3Dスキャンが利用できない場合、アルジェンタ分類を使用することは依然として価値があります。
と抄録でまとめました。
今回の研究のまとめ
3Dスキャンを使用した頭蓋測定を行える施設は全国的に見ればほとんどありません。
そのため見た目からある程度の重症度を判断する必要があり、その重症度からCA値がどれくらいなのかを知る必要があります。
この重症度分類の相関関係がわかれば、3Dスキャンを使用して測定をしなくてもだいたいの数値がわかることになります。
たまたまですが、2022年4月までで当院での3Dスキャン測定が終了となります。
これからは当院でも頭蓋測定を正確に計測することは出来ません。
この研究は全国の斜頭症で困っている親御さんに小児科医がおおよそのCA値をお伝えすることが出来る大事なテーマだと私は思っています。
注意点として、今回のアルジェンタ分類は私1人でおこなったため、誤差が生じる可能性があります。今後論文にしていく上では複数の医師でアルジェンタ分類をおこない、医師毎の相関を調べていく必要があります。
研究を進めてびっくりしたが、見た目は重症なのにCA値があまり悪くない症例がいたり、見た目はそこまで悪くないのにCA値が重症である症例が一定数いるということです。
研究の結果には、アルジェンタ分類タイプ5の乳児72人のうち,11人(15.2%)がCA≦12mmでした。
見た目の判断は非常に難しいなと感じますし、可能であれば3Dスキャンできちんとした結果を親御さんにお伝えしたいです。
なぜこのようなことが起きたのかをこれから研究テーマとして解明していきますが、改めてヘルメット療法の適応を決めるのは難しいなと考えさせられます。
斜頭症の治療選択にヘルメット療法があることはとてもよいことだと思いますが、小児科医としてはいかに予防するかが大事であり、斜頭症の予防器具の開発がこれからの課題だと思っています。やはり当院は斜頭症の研究をしていますから、3Dスキャナーの購入も前向きに検討する必要がありそうですね。
以上になります。
写真は我が家お気に入りのJAXA筑波宇宙センターです。
よく見ると、地球上に国際宇宙ステーション(ISS)の模型が浮いています。
息子は真剣にISSを観察しています。自宅では、展示場内でみたH2ロケット打ち上げの動画を再現し、「3、2、1…blast off!!」と興奮しておもちゃロケットで遊びます笑。
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