今回の記事は、なぜスマホ育児(メディアの視聴)が言語発達に影響を及ぼすのかを説明していきたいと思います。今回の記事で私が伝えたいことは
3歳未満でのメディアの視聴はなるべく控える。
3歳未満と3歳以上のメディアの視聴は別物である!
になります。
スマホがなかった時代、2000年前後からテレビ視聴と発達に関連したことは世界でも多く議論がされていました。
日本では、小児科学会がメディア視聴に対し提言を出したのが2004年です。
まずは、その内容から説明していきましょう。
この記事の目次
テレビをずっとつけていると、言葉が遅れる?
まず2002年に報告された論文1)を紹介します。
生後半年〜1 歳の間にテレビなどの一方通行の刺激だけの世界で生活してしまうと、言葉が育たず、友人と上手に遊べず、気に入らないとパニックを起こし、一般に自閉症とみなされかねない状況になる新しいタイプの言葉の遅れの子どもたちがみられてきた。
という内容です。
この論文をうけて小児科学会が追跡調査を行い、乳幼児の長時間のメディア視聴は危険!という提言2)を2004年にだしました。
この提言内の追跡調査を説明していきます。
1歳半健診1900人に調査を行いました。
1日にテレビの視聴が4時間未満、1日に子供の近くにテレビがついている時間が8時間未満がA、4時間以上のテレビ視聴があり、テレビがついている時間が8時間未満がB、テレビの視聴が4時間未満、1日のテレビがついている時間が8時間以上がC、テレビの視聴4時間以上でテレビのついている時間が8時間以上がDと4つのグループにわけて言語発達やその他の発達がどうかを検討しました。
結果です。縦軸が言葉が出ない確率をA群を1として比較したものです。
テレビを4時間未満しか視聴していない子供(A群)と比較し、4時間以上見る子供(B群)のほうが単語出現の遅れの数は多いですが、有意差はありませんでした。
つまり、テレビをみている時間が長い子の方が言葉はやや遅れるが、そこまで大きな差ではないということになります。
しかし、興味深いのが、B群よりC群のほうが言語が出ない確率が有意に高いという点です。
1日のうち8時間以上テレビがついているC群とD群ではA群と比較して明らかに言語が遅れるということがわかりました。
つまり、テレビの視聴時間が短いのが1番よいが、1日のうちテレビを長時間見ているよりも、1日中テレビがついている方が言語発達が遅れた!という結果なのです。
次に、テレビの視聴時に親が子供に話しかけをおこなっているかいないか、で子供の反応がどう差がでたかを検討したものが上記の表になります。
テレビ視聴中に親が声かけをしていない場合、子供は指差しが特に少ない!
という結果がでました。
上のグラフの結果は、テレビ視聴中の親の話しかけのあり、なしとテレビの視聴時間が4時間以上であるかないかで4群にわけたものになります。
この結果もおもしろいです。
まず左のグラフをご覧ください。
A群とB群は差がないので、親が児へ話しかけることで、4時間以上テレビを視聴しても指差しに差は出なかったことがわかります。
親の話かけがあるA群と親の話しかけがないC、D群で明らかに指差しが出来ないことがわかりました。
この指差しに関しては、前回の記事で出てきました共同注意についての話題です。
共同注意を重ねることが言語発達の基本でした。
そのため、共同注意の機会がないC、D群で言語発達が遅れるのは当たり前だよねということになります。
次に右のグラフにうつりましょう。指差しに差はなかったA群とB群ですが、言語はテレビの視聴が長いと遅れるという結果でした。
ですが、親が話しかけないC群よりはテレビの視聴が長いB群のほうがまだ言葉の遅れが少ないことがわかります。
1日中テレビがついていると家族内での注意がテレビに向いてしまうため、お子さんが何かに気がついたとしても、親御さんがお子さんの変化に気がつかず、共同注意の機会が少なくなるということがわかりました。
この結果をまとめると、
「もしメディア視聴をするならば、時間を決めて、親と一緒に視聴しましょう」
「テレビをつけっぱなしにするのはやめましょう」
になります。
小児科学会の提言
小児科学会の提言も復習の意味でのせておきます。
・2歳以下の子供にはテレビを長時間みせないようにしましょう。(長時間視聴は言語発達が遅れる危険性が高まります)
・テレビはつけっぱなしにせず、見たら消しましょう。
・乳幼児にテレビを1人でみせないようにしましょう。
・授乳中や食事中はテレビをつけないようにしましょう。
・乳幼児にもテレビの適切な使い方を身につけさせましょう。
・子供部屋にはテレビを置かないようにしましょう。
という内容です。
提言の中には、「乳幼児のテレビ長時間視聴には危険が伴うことを大人は認識すべきである」と記載があります。
これだけ見ると、テレビそのものが悪なのではないかと誤解する人がいると思いますが大事なのは乳幼児期に見せるなというところです。
アメリカ小児科学会も2歳以下の子供にテレビを見せないように働きかけるべきだという提言を1999年に出しています。
この、2歳以下で見せるな!という部分が非常に大事です。
アメリカではテレビと多動に関連する論文が多く報告されています。いくつか紹介していきましょう。
海外のメディア視聴と発達に関しての論文
まず1つ目の論文3)は、1-3歳のテレビ視聴の長さが長いと7歳時点で、注意力の問題が28%増加するという内容です。
2つ目の論文4)は3歳未満での教育的な番組、非暴力的な娯楽番組、暴力的な娯楽番組を視聴した場合の5年後の注意力がどうなったのかを報告した内容です。
3歳未満での教育的な内容の視聴であれば5年後の注意力に差はなかったが、非暴力的な娯楽番組、暴力的な娯楽番組を視聴したグループでは注意力に差が出たという結果です。
また、4-5歳で3つのタイプの番組をみたグループに関しては、その後の注意力に差はでませんでした。そのため、テレビの視聴に関連した問題は3歳未満での視聴と、非教育的な内容に問題があるとしています。(検証している内容が凄すぎて今この研究は無理でしょうね)
3つ目の論文5)は、5歳時点でのテレビの視聴時間の長さは多動、衝動性との相関はないという論文です。
この3つの論文から私が伝えたいことは、
「言語獲得がされる3歳未満でのメディアの視聴と、ある程度言語が獲得された3歳以上のメディア視聴は別物である」になります。
アメリカ小児科学会や日本小児科学会の提言にもありますが、乳児期の刺激はデジタルなものでなく、実体験であるほうがよいという推奨になります。
2010年代もメディアの視聴と注意欠陥多動性障害(ADHD)の関連については研究が続けられ、関連するという論文6、7)もあります。
ですが、ADHDは遺伝的な側面が強く複合的な要因であることが多いため、メディア視聴が絶対ADHDと関連するというのは少し言い過ぎかもしれません。
関連する可能性があるというのはおさえておいてよいと思います。
ちなみに直近の中国の論文8)では、3-6歳の子供たちの1週間のスクリーンタイムの平均をとり、それぞれの年齢での行動の差を比較したものがあります。
60分以上のスクリーンタイムでADHDの確率があがると結果を出しており、視聴を制限する必要があると結論していました。
もはや60分もダメと筆者は述べています。とても厳しいですね。
1番最初に登場した、新しいタイプの言葉の遅れの子供達についての治療は、基本的にはメディアの視聴を一切禁止することになります。実際その対応でおおむね改善します。
最初の3日間は大変ですが、そこを乗り切ってしまいさえすればそれ以降は大丈夫はパターンがほとんどです。
まとめ
ここまでメディア視聴について説明してきました。
現在、スマホを使用してあらゆる動画を自由に閲覧することが出来ます。
我々親世代の時になかったスマホが、生まれた時からある時代ですからご家庭によって育児の方針は様々だと思います。
今回紹介した内容も20年前に研究された古い話題ですが、2歳未満のメディア視聴は可能な限り控えていただきたいという考えは私は変わりません。
20年前の日本小児学会の提言の中に、テレビの健康影響に関して、視力への心配をしているが、言語発達の影響を心配している親は少なく、むしろ言語や知識を教えるために見せている親御さんもいたという内容が記載されていました。
ここまでブログをみていただいた方はわかると思いますが、実際にメディアから知識を得る可能性があるのは、言語発達がある程度固まってきた3歳以上になります。
3歳以上に対してのメディア視聴に関してはご家庭毎に相談していただき、ご両親の納得された育児方針のもと適切に使用していただければと思います。
ただし漫然とテレビや動画を流すのはやめていただきたいと思います。
次回は実際に言葉が遅れた場合の対応について説明していきたいと思います。
1) 片岡直樹.新しいタイプの言葉遅れの子どもたち:長時間のテレビ・ビデオ視聴の影響.日本小児科学会雑誌.106(10), 2002, 1535-9.
2) http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=27
3)Christakis DA, Zimmerman FJ, DiGiuseppe DL, McCarty CA. Early television exposure and subsequent attentional problems in children. Pediatrics. 2004 Apr;113(4):708-13. doi: 10.1542/peds.113.4.708. PMID: 15060216.
4) Zimmerman FJ, Christakis DA. Associations between content types of early media exposure and subsequent attentional problems. Pediatrics. 2007 Nov;120(5):986-92. doi: 10.1542/peds.2006-3322. PMID: 17974735.
5) Stevens T, Mulsow M. There is no meaningful relationship between television exposure and symptoms of attention-deficit/hyperactivity disorder. Pediatrics. 2006 Mar;117(3):665-72. doi: 10.1542/peds.2005-0863. PMID: 16510645.
6) Lingineni RK, Biswas S, Ahmad N, Jackson BE, Bae S, Singh KP. Factors associated with attention deficit/hyperactivity disorder among US children: results from a national survey. BMC Pediatr. 2012 May 14;12:50. doi: 10.1186/1471-2431-12-50. PMID: 22583686; PMCID: PMC3502478.
7) Nikkelen SW, Valkenburg PM, Huizinga M, Bushman BJ. Media use and ADHD-related behaviors in children and adolescents: A meta-analysis. Dev Psychol. 2014 Sep;50(9):2228-41. doi: 10.1037/a0037318. Epub 2014 Jul 7. PMID: 24999762.
8) Xie G, Deng Q, Cao J, Chang Q. Digital screen time and its effect on preschoolers’ behavior in China: results from a cross-sectional study. Ital J Pediatr. 2020 Jan 23;46(1):9. doi: 10.1186/s13052-020-0776-x. PMID: 31973770; PMCID: PMC6979375.
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